第1部:学祭前
第5話『迷走』
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「はあ…おいしい」
「ふつうのお茶だよ」
「なんだか、思い出します」言葉はふと、遠い目をする。「屋上で食べたご飯、三人で仲良くご飯食べて、三人で笑って、三人で話して…」
世界の仲介で、言葉と知り合ったころ。
上手く話せない二人を世界がサポートし、何とか話を盛り上げていた。
言葉とすれ違うこともなく、世界とも関係を持たなかった頃の話である。
「あの頃はよかったね、何もなく…」
「ねえ、私、レモネード持ってきたのを覚えていますか?」
「ああ、あれはおいしかったな」
「はい、あの時のレモネード、すごく温かかったです…。ほんとよかった…、最近、電話もメールも通じなくて…。ほんと怖かった……」
誠は胸を突かれた。
世界の強引な口調があったとはいえ、流されるままに着信拒否にしてしまったこと。世界には悪いとは思うものの、自分自身、それでは不満だったのを引きずっていたこと。
やはり自分は、駄目だなと思った。
紅茶を一口飲むと、言葉は真顔で誠を見つめ、
「誠君、逃げてるから…」
「逃げてる?」
「私が、やだって拒絶してから、ずっと…。だから、連れ戻しに来たんです」
「連れ戻しに、来た…?」
言葉はそこで、顔を近づけ、
「誠君…私のこと、好きですか…?」
「へ?」
誠はぽっと顔を赤らめた。
「いや、ずいぶん単刀直入な…どうして、んなことを」
「いいから答えてください」
真剣な言葉のまなざしに、誠はつぶやくように、
「……好きだよ。でも、俺は…俺には…」
言葉は、誠が次のセリフを言うのより早く、
「西園寺さんや、平沢さんとのことは許してあげます」
「え…」
「西園寺さんにされても、平沢さんに強引に引っ張られても…たとえあの二人が、誠君を返してくれなくても…」
「そうじゃなくて…俺は…」
「私も分かっています。西園寺さんや、平沢さんの気持ちも。二人を誠君が、気にしているということも」
「言葉…」
「だけど、私のほうがもっと好きですから。もっと、誠君になんでもしてあげられますから。…そのかわり、私のお願い、受け入れてくれますか?」
「お願い? 構わないけど」
「その…あの…」
言葉は、顔を真っ赤にして、手を組む。
と、突然、彼女がずいっと近づき、
「え…わ!」
気がつくと誠は、黒いソファーの上に押し倒されていた。
きゃしゃな体のどこに、こんな強い力があるのか。
「私の全て…受け入れてください。私もう、拒まないですから…怖がらないですから…」
潤んだ目で言葉は、誠を見つめた。
「言葉…!?」
「だから…だから…」誠の肩をつかむ言葉の両手に、力が入る。「私と、本当の恋人になってください…」
「言葉…」
胸がドキドキする。思わず言葉の頬に、右手を当てる。
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