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Cross Ballade
第1部:学祭前
第5話『迷走』
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「おいおい、伊藤は世界の彼氏なんだぜ。他の子に目移りするあいつが悪いんだろうが」
 刹那は、七海に直接答えず、
「これは私個人の意見だから、七海は七海のやり方でやればいい。
ただ私、思うんだ。
桂さんや平沢さんを力づくで遠ざけても、伊藤の心は乱れるだけ。世界も不幸になってしまう。
伊藤自身が、最終的には好きな人を一人決めなきゃいけない気がするんだ」
 七海も思案顔になる。
「とはいえ、あのカイショウナシじゃあねえ…」
「それでも、伊藤の結論を待つしかないよ」
「だけどよ、もし桂や平沢さんを選んだとしたら?」
「伊藤が世界ではなく、あの二人のどちらかを選ぶのなら、仕方がないよ」


 マンションの周りには、いくつもの曲がりくねった電燈が、雨に打たれながらも、ぎらつく光を照らしている。
 誠はボーっとして蝙蝠傘の滴を落とし、マンションのエレベーターに乗った。
 雨がよく降る。
 泰介からも、最近暗くなったといわれるけど、それは満たされない思いがあるから。
 でもそれは、満たしてはいけない。
 しかし…そのことで、世界を深く傷つけてしまって…。
 言葉…はともかく、平沢さんのことは、忘れた方がいいのではなかろうか、でも…。

「誠君!」
 ぎょっとして顔を上げると、家の入口に言葉がいる。
「言葉…」
「えへへへ、来ちゃいました」
「どうして…」
「教員室で、3組の名簿を見て、住所を調べて」
 ほほえみを浮かべながら言葉は答えた。
「誠君の家、お母さんの帰りが遅いんですか?」
「ああ」
「うちと一緒です。うちも、帰りが遅かったり、帰ってこなかったり…。仕事ばっかりですよ」
 まさか自分の家に言葉が来るとは。
 ひょっとしたら、何度も電話やメールをしているのに自分が応じないから、怒っているのかもしれない。
「あの…誠君?」
「何?」
「あがっていって、いいですか…?」
「え…?」
「誠君の家に、来たかったんです」
「…」
 わざわざここまで来てくれたのに、追い返すわけにもいかなかった。電話やメールのことも、断れなかった自分がいけないのだから。
「…結構、部屋散らかってるけど、それでもいいなら」
「いえ。…では、お邪魔します…」


 誠は母との二人暮らしだが、母が看護師の仕事で帰りが遅かったり、夜勤で帰ってこなかったりしている。
 そのため、彼はほとんど独り暮らしに近い生活を送っていた。
 どちらかと言うと整理整頓は苦手なほうだが、誰が来ても恥ずかしくないように、休日には必ず掃除をする。
「きれいなところですね…」
 リビングで古い黒いソファーに座り、言葉はつぶやく。
「言葉のおうちと比べられると、厳しいけどね」
 誠はティーバックで紅茶を作り、紅茶を差し出した。
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