第1部:学祭前
第5話『迷走』
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好きだった恋人をとられて、すごいショックだったんだね。友人と話してもうまくいかなかったのか。思い切って、恋人に直接会ってみたらどうだ。本人から直接思いを聞くといいよ』
太陽の半分が雲に隠れる。
「そういえば澪、桂のことになると目の色が変わるな…」
夢中でメールを入力する澪を見つめながら、律は独りごちた。
音楽室を飛び出し、トイレに入りこみ、唯は携帯電話を取り、誠に電話をしてみる。
『おかけになった電話番号は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』
そのメッセージが、また届いた。
三回繰り返した。
何回やっても同じだった。
「どうして……どうしてなのよ……マコちゃん………!」
気がつくと一心不乱に走り出していた。
いつ校内を出たのかも、いつ校門を出たのかも、分からなかった。
気がついたら、既に家の玄関にいた。
無言で入っていく唯に、
「お姉ちゃん…?」
憂の声がかかる。
憂はリビングで、何か紙に書いていたようだ。
「憂…。今日は、早いね」
憂もなぜか元気がなく、目がうつろになっている。
「お姉ちゃんこそ。部活はどうしたの?」
「ごめん…。やる気にならない」
「え、何故…?」
唖然とする憂に、唯は答えた。
「マコちゃんに会えない…マコちゃんが、私に返事してくれない…。
もうやる気、出ないよ」
その後、一気に階段を駆け上がって自分の部屋に入り、ベッドの上に突っ伏した。
「…やっぱりお姉ちゃんには、伊藤さんが私以上に大切な人なんだね」
ドア越しに呟く憂の声も、聞こえなかった。
顔を伏せているため、何も見えなかったが、誠の笑顔が視界によぎっていた。
「唯―! ごはんよー!!」
母の声で、唯は我に返った。
窓を見ると、日はもうとっくに暮れ、にび色の雲が空全体を覆う中で、傘を被った満月が顔をのぞかせていた。
うつ伏せになっている間に、寝てしまったらしい。
蒲団が少し濡れているのが気になった。
一つあくびをしてから、唯は部屋を出た。
「あれ、お母さん、早いね」
「仕事が早く終わってね。今日はお父さんも来てるわよ」
「本当に?」
唯の両親が仕事から帰って来て、今日は家族4人で夕食ということに。久々に家族だんらんができそうだ。
唯も気分転換にと思い、部屋着に着替えて、テーブルに座る。
「おえっ!」
「ま、まずい…」
しかし、その日の料理は、これまでにない位まずかった。
唯だけではなく、両親までもがそう感じた…。
「…え…そう…?」
晩御飯を作った憂が、ぼんやりした表情で、ぼそりと答える。
「憂…砂糖と塩、間違えてる…」
渋い顔をして、唯が言った。
ぼんやりした表情でかたまった憂だった
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