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Cross Ballade
第1部:学祭前
第5話『迷走』
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きたってことだよ。いつもダラダラしていたいつものあいつじゃない」
「それに、」口を挟んできたのは、さわ子。「苦しみは魂を強くさせるからねえ。恋愛をすると、時々すごく苦しんで、時々すごいハイテンションになるものよ。それを繰り返して人は大人になっていくもの」
「おいおい、」律はあきれ果て、「さわちゃんは101回振られている割に大人っぽくねえだろ。顧問のくせに全然仕切らないし、やたらと部員にコスプレ衣装着せたがるし」
「ほっといてよ。」
「まあ、そんなことはどうでもいいな。どうにか、ベストなコンセプトで学祭に臨めるといいんだがな…」
 澪は廊下を見ながら、つぶやいた。
「唯の奴、最近は遅刻ばっかりだしよ。恋の病ってこええもんだよ」
 律は頬杖をつきながら、クッキーをかじる。
「…まあ、お前と同じで、もともと真面目でないけどな。…いてて」
「どういう意味だ、こら」
 澪の耳を引っ張りながら、律はなじった。
「冗談だ、冗談」
 その時澪のポケットの中から、音のしない振動が伝わってきた。
 メールを開いてみる。
 差出人を見て、澪は目を見張った。
「桂…?」
「桂って、」律が横からメールを覗き込みながら、「以前唯に絡んできた、あいつ?」
「ああ。しっかし、『初めてメールいたします。桂言葉です。この間はありがとうございました。』なんて、ずいぶん礼儀正しいなあ」
「ちょっと正しすぎる気もするけどな。高校生とは思えん」
「まあ、いいじゃんか」澪はメールに目を通しながら、「清楚なお嬢さんなんだよ。私らと違ってさ」
「おいおい、『私ら』ってなあ…」
「『今までのいきさつ、すべて説明します。』って……」
 澪は目で言葉のメールを追っていく。律も横から携帯画面を見つめる。
 登下校の電車で、誠と一緒に居合わせることが多かったこと。
 世界の紹介で、誠と付き合うようになったこと。
 そして、言葉の異性恐怖症によるすれ違い。
 その間に、世界が誠と関係を持ち、そのまま彼女になってしまったこと…。
 返してといわれても断られてしまったこと…。
 詳しく書かれていた。
「…しかしね、」律が苦笑いを浮かべながら「『西園寺さんが誠君に突かれて…』って、どんだけ生々しいこと書いてんだこいつ」
 澪も顔を赤らめ、
「それだけ印象が深いってことだね。まあ、そんなところを見てしまえば、疑心暗鬼になるのも無理ないけどな」
 澪はすぐに、新規メール作成のボタンを押した。
「あの…澪先輩、」梓が不安げな表情で机を乗り出す。「あんまり深く関わると、面倒なことになると思いますよ」
「そうよ、澪ちゃん。よく言うじゃない。『人の恋路を邪魔する奴は、馬にけられてなんとやら』って」
 ムギも懸念の表情であるが、澪は無視して、次のような返信をした。

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