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Cross Ballade
第1部:学祭前
第5話『迷走』
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私」
「お願いですから、恋のことよりライブのこと考えてくださいよ…みんなが大恥かいちゃうんですから。まったく、唯先輩も律先輩も、ライブより恋愛のナンパの考えていて困ったもんですよ…」
「おいー、」律が文句をあげて、「私だって少しはライブのこと考えているんだぜ、トークとかさあ」
「トークはあくまでも箸休めでしょうが」
「はあ…」澪はため息をつきながら、「気持ちはわかるけどさ、今はライブのことを考えようぜ、唯。伊藤って奴とは、学祭の日にきっと会えるだろうしさ」
 嫌な予感が的中したか。澪は心の底から思った。
「だって…見張られてるんだよ…近づけないんだよ…。電話とメールだって、通じないんだよ…」
「まあ、そのうち伊藤が一人になることもあるだろ。その時に近づけばいいじゃん」
 言ってから、ふと思った。
 桂は? 伊藤に近づけているのか?
「唯ちゃん、」続いてムギが声をかけてきた。「ねえ、もう少し頑張れない? 榊野の学祭が終わったら、みんなでケーキバイキングに行きましょうよ」
「ケーキバイキング!?」
 皆の目が、一瞬輝いた。
 唯を除いて。
「でも、いつにします? 榊野学祭当日は休日だから、今の時期だともう予約いっぱいだと思うけど…」
 と、梓。
「だいじょうぶ、私のお父さんに頼めば何とかしてくれるから。終わったらすぐバイキングに行きましょう」
 ムギは大企業の社長の娘で、様々なホテルや店にコネがある。これまでも、唯のギターを購入する時、修理する時、彼女の力で値段を大きくおまけしてもらっていた。
「…しかしね、ムギの力も今更ながら凄いもんだなあ」
 唖然としつつ、澪は答える。
 唯は…。
 今日のムギのケーキとお茶も、喉を通らなかった。
 なぜ誠に電話しても、メールしても、通じないのか。
 正直このことが、ケーキ以上に大きなものとして自分の頭の中に存在するのは、信じられなかった。
「ひょっとしたら榊野学祭、去年以上に有意義な思い出になると思うわよ。甘露寺さんに会って、ケーキを食べ放題で…」
 甘露寺、と聞いて、もはや唯は耐え切れなくなり、
「…ごめん、帰る」
「え?ちょっと、唯、まだ練習の途中なんだよ」
「やる気にならないんだよ」
 唖然とする周りを無視して、唯は音楽室を後にした。


「唯先輩…困ったものですよ」
 唯の去った音楽室で、梓は一人、愚痴る。
「恋は盲目、だからね」
 ムギが苦笑いを浮かべながら、食器を回収していく。
 太陽は西に傾き、雲が空の多くを覆い隠していた。
「…初めてだな」
 澪の言葉に、皆はそちらを向く。
「唯の奴、伊藤と親しくなってから、いつもより思いっきり笑うようになって、そして今は、思いっきり不機嫌になってる…」
「澪、どういうことだ?」
「波がついて
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