第1部:学祭前
第5話『迷走』
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いけどな…」
「いたるは気になるけどね」母は気丈な表情にもどし、「今も仕事の帰りに、お土産買ったりしてるけどね。いつも聞かれるわよ。『おにーちゃんはげんきー?』とか、『いつおにーちゃんのはんばーぐたべれるー?』とか」
「ははは、頼りにされて、うれしいような大変なような」
誠は笑いながらも、すぐに表情を曇らせ、
「なあ母さん…俺も、親父と同じなのかな」
「え…?」
「俺もなんだかんだで、二股も三股もかけてる。言葉や、世界や、平沢さんを傷つけていて…」
また、しばらく沈黙が流れた。
車は、誠のマンションの駐車場にたどりついていた。
車のタイヤが水たまりをけり上げる。
「…大丈夫、あなたはあの人と違って、相手を思いやれる優しい心があるから」
そういわれると、胸がきりきりする気がした。
いままで、自分は父と同じだと思っていたから…。
「思いやれる、優しい心、ね…」気がつくと目が熱くなり、鼻汁のグスグスいう音が聞こえていた。「あれだけ、人を傷つけているのに…。でも、ありがとう、母さん」
携帯の電話帳を開く。
「言葉……。平沢さん……」
2人にかけていた、着信拒否を解除した。
秋の天気は変わりやすい。
その翌日、残暑とでもいうべき30℃の暑さと、快晴が戻ってきた。
「あ、マコちゃん!!」
唯は軽音部の部室で、高い声をあげた。思わず周りがそちらを向く。
唯の携帯に、誠からお詫びのメールが届いたのだ。
『平沢さん、メールの返事が遅れてすみません。
ちょっと携帯の調子が悪くてね。
俺は学祭の準備、頑張っています。
桜ケ丘のみんなや、平沢さんをしっかりでむかえたいし』
「ばんざーい!! 嫌われていなかったんだ!」
両手をあげて喜ぶ唯。
そんな彼女を、澪は目を細め、ただし心の一部に妙なしこりを抱えながら見つめていた。
ふと、携帯から音のない振動が届く。メールが来たようだ。
開いてみる。
「桂…。伊藤に会えたのか」
澪の表情が、和らいだ。
『秋山さんに励まされて、勇気百倍になりました。
誠君も、私のこと好きだって言ってくれて…。
私、もう一度やり直してみようと思います。そして学祭で、いい思い出を作りたいです』
「桂…」
「でもよ」横から律が首を突っ込んでくる、「西園寺って奴や、唯のことはそいつ、なんて言ってたんだ?」
「いや…何も言ってない。となると、伊藤が一番好きな奴って、分からないな…」
唯は、その事には気にも留めず、
「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」
と三唱を繰り返す。
「澪先輩も、あの桂って人に会ってから、なんだか変わっちゃいましたね…」
梓が横眼で見ながら、つぶやく。
「桂って奴が結構、澪の好みに合ってるんだろう
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