第1部:学祭前
第5話『迷走』
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、ないんだ…」
重い声で、誠は答えた。
「そうかなあ、仲よさそうだったんだけど…」
「ち、違うんだ」誠は首を振って、言った。「嫌いではないし、気になってはいるんだけど」
「…どういうこと?」
「もともと俺が好きだったのは、違う人だったんだ。
だけど、二学期になってから、その人の紹介で、言葉と知り合った。言葉も嫌いではなかったし、もともと憧れていた子だったんだ」
「そう…」
「でも…でも、好きな人をあきらめることができなくて、その人のアタックを気が付いたら受け入れていて…。自分も、思いを告げていた」
「でも…貴方は言葉さんも好きなんでしょ?」
「そうだよ…。でも…その人はそれ以上に好きな人でもあるし、けど…最近はそうでもないんだ…」
母は妙な顔になった。要領を得ない答え方に戸惑っているのだろう。
「俺の気になる人は、もう一人いて…、」誠は左手にある川を見つめながら、別の人の話をする。「その人は桜ケ丘高校の人で、軽音部をやっているんだ。
少し前に、あの人に、ちょっと強引に誘われて、一緒に登下校したり、喫茶店に行ったりしてた。
ちょっと天然だけど、すっごく笑顔が魅力的で、それにすごい癒されて…。
それは、さっき話した子や、言葉にはないもので…。
強引に誘われても気にしなくなったし、もっとそばにいてほしいと、思うようになっちゃって…。
最近なかなか会えなくなって、なんか俺、どうかしちゃったよ」
「………」
「正直、だれが好きなのか、もう分からないんだ。
誰が俺にとっての『1番』なのか……」
しばらくお互いに、何も言わなかった。
母も、何も言えなかったのかもしれない。
車は、水かさの増した川を横切り、マンションやファミレスの林立する街並みを通過していく。
夜空には何もない。月も見えない。
「くわしいことは母さん、よくわからないけれど、」母がやっと口を開いた。「じっくり決めていけばいいんじゃないの? まだ貴方は子供なんだし。時間はたっぷりあるんだし」
「でも、学祭まで、もうあまり時間がないから」
「学祭にこだわらなくてもいいじゃない。貴方の思い通りにすればいいことよ。マイペースで、じっくり頭と心で考えて、3人の中から1人選べば」
「マイペースか…。そうだな…」
ふと誠は、車のサイドブレーキの隣にある母のかばんに、一枚の写真があるのを見つけた。
「母さん、それは…」
自分が幼いころに撮ったと思われる、家族4人の写真。
父と、母と、妹と、自分。
なぜか父の顔が見えないように、トリミングが施してある。
おもわずくっくっ笑って、
「親父の顔、わざわざ消したのか」
「ええ…」陰った表情で、母は答えた。「最近、また外で子を作ったって噂よ…」
「そうか。…ま、今となってはどうでもい
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