第1部:学祭前
第5話『迷走』
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「誠君…」
思わず誠は、火照った顔を自覚しつつ、目を閉じ、言葉に顔を近づける。
雨の降る音に木枯らしが加わり、ピオーと音がし始めた。
その時、金属がこすれあう音が、ガララ、ガチャッと鳴った。
誠はすぐに、母が帰ってきたものと察する。
その勘が正しい証拠に「誠―、帰ってるのー?」と、玄関から間延びした声。
「母さんだ!」
思わず自分の上に馬乗りになっている言葉を突き飛ばし、乱れた服を整えなおした。
言葉も顔を赤らめて彼から離れ、制服を着直す。
「誠、帰ってるなら返事しなさい…あら、お友達? 何という名前?」
リビングに母が、顔だけのぞかせる。
「あ、俺の友達の、」恋人、というには余りに恥ずかしかった。「桂言葉。しかし母さん、今日は早いな」
「彼女です」言葉が誠の声を遮るようにいい。「はじめまして、桂言葉です。勝手にお邪魔して申し訳ありません」
頭を下げた。
「あらら、誠の母です。息子が大変お世話になってます」
「はい」
二人とも以心伝心で気が合うと感じたらしい。たがいに満面の笑顔を浮かべている。
ようやく誠も、心から頬が緩んだ。
「誠も隅におけないのね」母はニヤニヤしながら、「今日は本部から助っ人が来てくれてね、婦長もお母さんを気遣ってくれて、早めに帰れたのよ。そうだ、せっかくだから言葉さん、何か食べていかない?」
「あ…。ありがとうございます」
「母さん、俺も手伝おうか?」
誠が腰を浮かせるが、
「いいのいいの。いつも誠には自炊させて申し訳ないと思ってたから。言葉さんとおしゃべりしてなさい」
母は、奥の台所へ急いだ。
再び、誠と言葉は2人きりになった。ソファーで隣り合わせに座っている。
「誠君…ありがとうございます」
「え?」
「誠君の本音、聞けましたから…。でも、誠君、西園寺さんや平沢さんに誘惑されて、いまどうかしてます」
「どう…なんなんだろうな…」
正直、あの2人も好きなのである。
「やっぱり、勇気を出して来た甲斐はありました」
言葉は携帯を取り出し、受信メールを開いた。
誠はこっそりと、彼女のメールを横から見る。
どうやら言葉は、この人の励ましでここに来たようであった。
送信者は、秋山澪。
知らない人である。
3人で夕食を済ませた後、言葉を車で送り、誠と母は、帰途へ着いた。
助手席に座っている誠は、下から上へと過ぎ去っていく電燈をぼんやりと眺める。
ワイパーが激しく動いている。
「それにしても、貴方も隅におけないわねえ。あんなかわいい子を彼女にしていたなんて。
きっといいお嫁さんになるわよ。言葉さん」
車を運転している母が、あっけらかんとした表情で話しかけてきた。
「…彼女、というわけじゃ
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