第1部:学祭前
第5話『迷走』
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光景が見える。
右手に雑誌や漫画がおいてあって、左手に豆板醤チキンやポテトの入ったヒーターが置かれていて……。
でも、どこか物足りなく感じるようになったのは、なぜだろう。
誠は世界から離れ、漫画雑誌を読んでみる。
いつもこうして読んでいると、
「伊藤くーん!」
平沢さんの声が聞こえてきていた。
世界が言葉や平沢さんを警戒するようになってから、そういうことが全くなくなってしまった。
俺の彼女は世界。
それは分かっている。
でも、どこか物足りない。平沢さんに会えなくなってからは特に。
自分が榊野学園に入学して、このコンビニに通うようになってから、たまに見かけるようになったな。
世界や泰介とつるんでいるとき、あの子もよくコンビニにいて、よく漫画を読んでいた。
ギターケースを肩にかけて、友達や後輩と笑っていたものだった。
理由はわからないけど、いつの間にやら、それが気になっていて・・・。
こうして漫画を読んでいると、また
「伊藤くーん!」
と呼んでくれるような気がした。
「誠!!」
はきはきした声で、誠は我に帰る。
「わ! あー、びっくりした、世界か……」
「びっくりしたはないでしょ。」
世界は疑り深い目でにらむ。
「いや、夢中になってたから……すまん。でもいい時期なんだぜ、『ワンピーク』。人魚島で麦わら一味が集結して、元・秩父会のドンベエと一緒に悪党どもに大反撃ということになって……」
ごまかして漫画の話をする。世界はきょとんとしながらも、表情を和らげ、
「そういえばそうね。いいところいってるかも」
「『ナルコ』はどうなってるかな。世界は好きなんだろ」
「まあね。ナルコとサスケが敵城侵入のあたりまでいったかな。火影になることを目前に控えて。」
「そう言えば、言葉は『金魂』が好きだそうだな……」
お互いにくすくす笑いあって、
「私もちょっとびっくりしたなあ…あんな清楚な子が金魂ねえ……」
「SF時代劇なんて言ってる割に、下ネタばかりが多いからなあ、あの漫画……」
けたけた笑う誠だが、なぜか、心の奥底から笑えなかった。
携帯が気になった。
世界の頼みで、言葉と唯の携帯が着信拒否になっている。
平沢さんとは一度として、メール交換も電話もできなかったな……。
なんでこうなるのやら……。
そんな日々が、一週間ほど続いた。
今日も、学校の勉強も学祭の会議も耳に入らず、誠は帰宅した。
世界もついていっている。
「最近だけど、いつもボーっとしてるね、誠……」
「まさか、そんなことねえよ」
誠は懸命にはぐらかす。
「誰かほかの女の子のこと、考えたりしてない? 桂さんや、平沢さんとか……」
「それはっ……!」
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