第5章 契約
第77話 風の眷属
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たわみ揺らめいて居た粘液状の糸が、その最後の瞬間、同一円周上に並ぶ球体の十二体それぞれから……。
最初はまるで両手を繋ぐように。それぞれの両隣に存在する球体に対してのみ繋げられていた粘液状の糸が、その最後の瞬間、時計の文字盤の上に存在する十二の点それぞれに向けて粘液状の糸を繋いだ。
当然、粘液状の糸に見えるそのすべてが、高度な魔術回路。アルファベットとも、それ以外の文字とも付かないその文字ひとつひとつが、何らかの意味を持って居る事は想像に難くない。
そう。その瞬間、十二の球体がそれぞれに繋がる複雑な紋様を描く、巨大な魔術回路が宙空に作り上げられたのだ。
その時、頬に冬の属性を示す風を感じた。
いや、違う。感じたのは頬にだけではない。その風は五感すべてが認識し、俺の本能がこの場からの一時的な撤退。その後、態勢を立て直してからの対応を促している。
そんな、不安感のみを煽る冷たい魔界の風。
その瞬間!
世界が激しく歪み、そして低く鳴動を続ける冬属性の大気。
危機感と瞬発力。己の第六感に従い、自らの傍らに立つタバサを抱え上げ、遙か上空へと退避する俺。
正にその瞬間、蒼白い光輝を発した大地が、まるで内側からの圧力に耐えかねたように破裂をした!
但しそれはマグマや溶岩などを伴う火山性の爆発には非ず。朦々たる粉塵。土煙を伴うそれは、正に地下深くに存在した何モノかが地上に現われた証。
強い夜風。但し、それは眼下より吹き付ける風……。おそらくは異世界より吹き寄せる魔風により、朦々たる粉塵が消え去った後、ゴアルスハウゼン村近くの翼人のコミュニティ近辺に顕われて居たのは……。
遙か眼下を埋め尽くす黒き生命体。
全長は五、六メートルと言うぐらい。コウモリに似た大きな翼を持つグロテスクな生物。
その不気味な生物が、眼下を完全に埋め尽くして居たのだ。
刹那!
キーキーと耳障りの悪い甲高い金切り声を上げながら、百メートル以上は有るはずの彼我の距離を一瞬にゼロにして俺たちに肉薄するその黒き生命体。
しかし、そのぐらいの速度に因る攻撃は、あの黒き生命体を上空から見た瞬間に想定済み。
大気の存在する惑星上とは思えない速度……。衝撃波で周囲に破壊の爪痕を残しながら接近する一体を軽く右にスライドするような機動で難なく躱し、次に接近して来た二体は、俺の周囲に発生させた紫電が一掃して仕舞う。
そう。いくら星空を渡ると表現されている生命体で有ろうとも、こちらも現実には考えられない神の領域で動ける存在。一般人を相手にしているのとは訳が違う。
まして、ここはヤツラの活動領域ではない。俺やタバサの住む星。ここでヤツラの勝手を許す訳には行かない。
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