第十三話 〜彼女たちのお話 -ティアナ・ランスターの章-【暁 Ver】
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果的にそんな人間に教導を任せられるわけもなく。八神はやての一存により彼の身勝手な提案は黙殺される事になった。
「タカムラ君や。どうしても彼女達に教導したいんなら、先ずは信頼やと思うわ」
彼女は思い出したくもない事を思い出してしまい、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。かといって珈琲に八つ当たりするわけにもいかず、勉強を再開しようかと考えた時、ドアをノックする控えめな音が彼女の鼓膜を揺らした。こんな時間に誰だろうと訝しく思ったが、こんな時間であるからこそ尋ねてくる人間は限られる。半ばそれを予想しながらドアを開けるとそこにいたのは──── いつものように微妙に視線を合わせず、バランスの取れた弥次郎兵衛のようにぽつりと立っている──── 桐生アスナだった。
熊のキャラクターが其処彼処にプリントされた桜色の寝間着を着込み、左手にはナプキンが掛けられたトレイを持っている。元々、彼女は寝間着を着るような人間ではなかったが、下着一枚で寮内を徘徊する為に寮母であるアイナにやんわりと怒られた経緯がある。それ以来寝間着を着るようにはしたが、買ってきた寝間着は悉くティアナやスバルに微妙な表情をされた為に些か不満そうであった。だが今着ている物はキャロやエリオに可愛らしいと言われたので機嫌を持ち直していた。
「どうしたの? こんな時間に」
「……潤いを届け」
「帰ってくれる?」
彼女の脳裏に悪夢が蘇る。
「……頑張ってるティアナにお夜食を持ってきました。おたべ」
「ナイス、愛してるわアスナ。ちょうど小腹が空いてきたところだったの、どうぞ」
こうして彼女──── ティアナ・ランスターは真夜中の訪問者を部屋へ招き入れた。食欲を刺激される香りと共に。
桐生アスナはテーブルへトレイを置くと物珍しげに部屋を見渡す。彼女の部屋へ入るのは勿論初めてではないが、自分の部屋が殺風景なだけに女性らしい部屋というのはやはり新鮮だった。ティアナはそんな彼女を横目で見ながら『あすな』と書かれたマグカップを取り出し紅茶を淹れる。彼女は珈琲が飲めない為だ。そして、ふと思い出したように彼女へと尋ねる。
「そう言えばスバルは? 今日訓練が終わってから見てないけど」
アスナはデスクの上にあるノートを蟻の行列を見るのと変わらない瞳で見つめながら答える。
「……おなか出して寝てたから」
ティアナはまさか落書きでもしたのかと思ったが、返ってきた答えは予想に反して──── と言うよりも『桐生アスナ』という少女の事を考えれば、ある意味予想通りではあった。
「……へそに黒ごまを詰めてやった」
酷い話である。訓練校時代に教官の鼻の穴へダンゴムシを詰めた時も思ったが、良識
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