暁 〜小説投稿サイト〜
フェアリーテイルの終わり方
開幕前 湖底の亡霊
[1/2]

前書き [1] 最後 [2]次話
 水色のネグリジェをゆらめかせて、少女は湖の底へ底へと沈んでゆく。
 沈む。沈む。沈む。冷たい水の奥へ。暗い水の深みへ。

(これでいいの。もともと    はパパにはイラナイ子だったから。パパはお姉ちゃんだけいればいいから)

 幼い少女が知っていたのは二つ。
 少女が望まれて産まれた子ではないコト。
 父親が少女を憎んでいるコト。

 だから、ついに、やっと、少女はこうして湖に己を葬ることを選んだ。

(……おねえちゃん……ぱ、ぱ……)

 最期まで父と姉を無垢に慕い、湖底の骸になるはずだった少女は。
 ふわ、と差し伸べられた透明な両腕によって、そっと抱き留められた。



“大丈夫? ……って訊くのもおかしいね”

 少女を抱き留めたのは、青年だった。
 父よりは幾分か若く、父よりずっと優しそうな青年。ツンツンと跳ねた黒い髪。琥珀色の目。水の中でゆらゆらと浮く白衣。

 本来人が生息できるはずのない場所に青年が居ることを、少女は疑問に感じない。幼い感性にとってそれは不思議でも何でもなかった。

“どうしてこんな所にいるんだい。ココは君みたいな子が来ていい場所じゃないのに”

 見た目を裏切らない、優しい声。

(     、いちゃめーなの?)
“そうだよ。だから早くお家にお帰り”

 家。自分をイラナイと言う父親がいる、家。

(かえれない。かえったらパパにおこられる)
“怒られる……パパに?”

 すると青年は厳しい面持ちで考え込んでしまった。どうしよう、困らせた、と少女は怯える。青年も父のように少女にイナクナレと願うのだろうか。
 そんな。ココを追われたら今度こそ少女に行き場はないのに。

“一つ聞かせて。君のパパは、黒いスーツを着て、いつも仮面を着けてる人?”

 こくん。

“その人が、君が家に帰ると怒るの?”

 こくん。

 今日の出来事だ。少女は水際の花を摘もうとしたが、届かなかった。代わりに姉が花を摘もうとして、湖に落ちた。それを父親に咎められて少女は折檻された。

 そもそも家へ来た日から父親は少女を疎んでいた。家に母親がいないのは少女のせいだと父親に言われたことがある――

 語る内に青年の顔から厳しさが消えていった。けれど代わりに悲しみが青年へとやって来た。

 青年は両手で顔を覆って体をくの字に折った。

“そ、んな……      …君は何てことを…こんな小さな子…せっかく授かった新しい命を…君は…”

 少女は慌てて青年に謝った。謝って、許しを求めた。

(ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、わたしがキズつけてしまったならアヤマルから、だから)

 どうかココから追い出さないで。

“ちがう…違うよ。君のせいじ
前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ