第五十八話 大刀その五
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聡美にも会釈をしてその場から消えた、後に残った剣士は大石だけになった。
その大石が聡美に対して言った。
「終わりました、今は」
「はい」
「あくまで今は、です」
言葉を限ったのだった。
「戦いは終わる気配がありません」
「そうですね」
「人は何かを願うものです」
大石の目がここで遠いものを見るものになった。
「願いそして求め」
「戦いもするのですね」
「お二人もまた然りです」
高代、そしてコズイレフもだというのだ。
「やはり願われ」
「それが強い故に」
「戦われるのです」
「願いとは何か」
聡美は俯いて述べた。
「それは人に必要ですが」
「あまりに強ければですね」
「呪いになりますね」
「はい、呪縛になります」
その人のそれになるというのだ。
「そして人を動かしていきます」
「それは人だけではないですし」
「といいますと」
「神もです」
聡美は遠い目になり大石に話した。
遠いだけでなくこのうえない悲しさも帯びさせた、その目になりそのうえで大石に対して話したのである。
「神もまた然りです」
「キリスト教の神ではありませんね」
「神といっても色々な神がいますね」
「かつてキリスト教では他の宗教は認めていませんでした」
それが故に無数の惨劇も引き起こしてきている。
「ですが今は他の宗教とも交流を深めています」
「そして貴方もですね」
「こう言っては神父として過ちかも知れませんが」
このことを前提にしながら慎重な口調で話すのだった。
「私は他の神の存在も信じています」
「他の宗教のですね」
「神仏ですね」
その存在を信じているのは神だけではなかった。
「仏教も然りです」
「あの宗教もですね」
「僧侶の方ともよくお話をしますし」
「だからこそですか」
「他の宗教の神の存在も信じます」
信仰はしていない、大石にとって信仰の対象はあくまでキリスト教の神だけであるのだ。
それ故に今聡美に言うのだ。
「ではその神は」
「西の方の神です」
その遠く悲しい目での言葉だ。
「そちらの」
「西ですか」
「はい、その世界の神は力があり」
神としてのそれがだというのだ。
「そして無限の寿命があります、ですが」
「その心はですね」
「人間と同じです」
それがその世界の神だというのだ。
「願うこともします」
「人間と同じ様に」
「むしろ人間よりも人間的です」
いささか矛盾のある言葉だが聡美はあえてこの表現を使った。
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