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空を駆ける姫御子
閑話2 〜日常の喧噪【暁 Ver】
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 些か、八神部隊長が想像していた単語とは違うと思うが、然もありなん。あたしが寸前で空き缶を握り潰したからだ。スチール缶だというのに自分でも驚くほどの握力が出た。あたしはそのまま、アスナへと見惚れんばかりであろう笑顔を向けた。

「その小瓶を渡しなさい」





 アスナは本当に困ったものだ。どうせこれもお兄さんが作った面白グッズなんだろう。昔から変な物を作ってはアスナを喜ばせていたらしい。

 一度アスナの部屋にある『がらくた箱』を検分しなければいけないとあたしが決意を固めていると、何かが頭に引っかかる。そう、とても引っかかる。何だかとても嫌な予感がするような──── 聞き捨てならないことをアスナが言っていたような気がする。

 今までの経験から言って、こんな予感がする時は決まって酷い目に遭うのは、スバルかあたしかに決まっている。あたしは半ば必死になって思考を繰り返した。

──── ここに来る前に実験した

 待て。違う。いや、ここも重要だけど、その前だ。キャロに話しかけられるもっと前。訓練終了後、更衣室で着替えている時に、アスナが()()を右手に持っているのを一瞬見た覚えが……あれは。冷や汗がじっとりと背中を流れていくのが手に取るようにわかった。

「ねぇ、アスナ? ここに来る前に()()って……何したの?」

 あたしはそう言いながら、服の上から()()の感触を確かめた。その感触に安堵したものの、嫌な予感は全く消える気配がない。お願いアスナ、違うと言って。若しくは犠牲者はスバルでありますように。だが、そんなあたしの些細な願いも虚しく、アスナの口から紡がれた言葉に絶望感を味わう事になる。

「……クロスミラージュは食堂で大人気」

 あたしは自分でも惚れ惚れするような素早さで、待機状態のクロスミラージュを取り出す。あたしが手にしたそれは──── 『くろすみらーじゅ』と書かれた変な板だった。

「あんた、後でぶっ飛ばすからねっ!」

 あの時、もう少し気にしておくべきだったと今更遅すぎる後悔をしながら、あたしは脱兎の如く部隊長室を飛びだした。





 桐生アスナは相も変わらずの、ぼんやり顔で八神はやてへと向き直る。

「……旅に出ます」

「自業自得やけどな。せやけど一人やないで? ……私も一緒や」

「……はやて」

「アスナちゃん」

 二人はそのままひしと抱き合った。傍から見れば美少女と言っても過言ではない二人が抱き合っている美しい光景ではあるが、片やティアナからの逃避行で、片や書類仕事からの現実逃避である為、色々と台無しである。

 それを指摘する権利を持っている人間がこの場には一人だけ存在していたが、彼女は何だ
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