過去編
挿話集
小噺集
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ムラグと情報量の絶対的制限がある。真のAR環境とは現実環境同様に目を向けるだけで多数の情報にアクセス出来ることだ。そうでなければ真に現実環境を拡張したとは言えない。
そこでこの研究施設では人間の周囲上下前後左右、つまり360度全方位にホログラムによる処理を行い、触れるだけでそのものの情報を提供出来るようにするという実験が行われている。
「これではただのシュミレーターではないのか?」
「いやいや。ホログラムを使っているのは単なる経費節減だよ。ホログラムと肝心のARシステムのシステム系統はそれぞれ独立している。ホログラムはただ単に環境を提供しているだけさ」
「……結局のところ、ARシステムが本物の物体だと誤認出来るまでに作り込んだ人件費であまり節約になって無いぞ」
「まあ……あはは」
そう言って笑う、この実験のテスターのバイトを紹介して来た菊岡誠二郎に呆れの意を込めたため息を贈り、腕時計を見る。
「これで協力は終わりだ。報酬、貰うぞ?」
「ああ、ありがとう。助かったよレイ君。木綿季君にもよろしく」
にこやかに笑う菊岡に手だけ振って応えると、プレハブの外に出る。蒼天の空の向こうに、この地の果てである海が目に入った。
この実験は広域に渡るホログラムとAR環境を使用する都合上、大規模な土地、それも木などの障害の無い、まっさらな環境を要する。
土地の少ない日本でそんな場所を用意するのは政府の援助があっても難しい。
そこで目を付けられたのは、建造されたまま放置されていた人工浮島。コンクリートと鉄の塊に土を被せ、草を移植し、各所にケーブルと実験装置を埋め込んで出来たのがこの広大な実験場だ。
日本の本土とは直接繋がっておらず、ヘリか船での連絡となるが、そこまで遠い場所ではない。ヘリで10分、船で20分と言ったところだろう。
それはともかく、今回のバイトはこれで終了だ。普段通りならこれで解散し後日報酬が振り込まれるのだが、今回は報酬を即日、直払いにして貰った。
「螢〜!」
「おう。待たせたな」
船の波止場から手を振りながら走ってくるのは木綿季。紺のTシャツに薄いピンクのパーカー。白地のミニスカートに黒のニーソとは随分とまた気合の入った服装だ。
元はと言えば今日は木綿季とのデートの日だった。1週間前に菊岡がバイトの連絡をよこした時は既にどこへ行くか以外は決まっていた。
そんな事情なので俺は断ろうとしたのだが、バイト終了後の数時間、実験場を開放してくれると言うのだ。最新技術が使われたその環境下で好き放題出来るのは願ったりだった。
木綿季にその提案をすると興味津々で承諾し、今日に至ったという訳である。
木綿季に補助デバイスであるゴーグルを渡し、それを着けるのを手伝う。
「じゃあ早速行こう
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