過去編
挿話集
小噺集
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られた。
「っ……??」
「ん……っと、早くしないと置いてっちゃうよ」
スルリと自分だけ上がると、木綿季は俺を太陽のような笑顔で見下ろした。
「ったく、勘弁してくれ……」
一連の木綿季の行動に戸惑いつつも過剰に驚くでもなく、俺は苦笑しつつ自分も上に上がった。
この平和な日々の一部である、何よりも愛しい少女を想いながら…………
5,拡張現実
人が知覚する現実環境をコンピューターにより拡張する技術、およびコンピュータにより拡張された現実環境そのもののことで、仮想現実の変種だ。それぞれAR、VRと略称されるこれらの技術は2026年現在、昔と比べ飛躍的な進化を遂げている。
とは言ってもそれは完全なものとは程遠い。ことARに関しては表示出来る情報、範囲が圧倒的に少ない。具体的には自分の周囲全体をARで覆い、現実の身でVR環境のような感覚を味わうことが出来るのが理想なのだが、現状それは実現していない。
ーーーいや、これからは"していなかった"というのが正しい。
「グラフィックのラグ、ノイズは許容範囲内……と言ってもやはり出るものだな。あれだけ調節したが」
目の前にある大樹。と言ってもALO内の世界樹の足下にも及ばないが。それに手を伸ばし、触れる。すると鈴のような音が響きウィンドウが開いた。
『「ブナ」…落葉広葉樹。温帯性落葉広葉樹林の主要構成種。日本の温帯林を代表する樹木』
その樹の説明が白地のウィンドウに簡潔に表示される。さらに、そのウィンドウを引き延ばしたり縮めたりして動作を確認しておく。現代の基準において、動きはややぎこちないだろうが、10年前のスマートフォン程度には動く。
次に、目を瞑ると暗闇の中にその説明書きは残ったままになった。これは視覚障害を持った人への機能であり健常者は任意でオフに出来る。
「やや足りないが、まあ十分だろう」
VR世界でウィンドウを閉じる時のように手を振ると、説明書きは消える。
一連の動作の確認を終えると、水城螢はこめかみ辺りの空を指で何度か引っ掻く。何度か試すと何かのスイッチが音を立てて彼の視界が変化した。
木々の生い茂っていた視界は途端に閑散とした景色に変わる。生えているのは苔類と、踏み荒らされた雑草ぐらいなものだろう。寂寥すら感じられるその風景に背を向けると前方の白い建物に向かう。
プレハブの二階建ての小屋。そこが《この世界》の中心だった。
上述したが、ARとは人が知覚する現実環境をコンピューターにより拡張する技術だ。例えばQRコードなどは分かりやすい例えだろう。専用のリーダーで読み込めば即座に情報を得ることが出来る。が、それには僅かなタイ
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