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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第38話 「皇太子殿下の二面性」
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問するといい」

 皇太子が背後を振りかえって、官僚達を見た。
 帝国でも改革派と呼ばれる者たちだ。その内の一人が軽く手を上げる。

「カール・ブラッケと申します。同盟では平民の権利がかなり認められているとお聞きしますが、どの程度まで認められているのでしょうか?」
「同盟においては、主権は国民にあります。国民主権の国ですから」

 サンフォード議長が口を開いた。
 こればかりは自信を持って言えるのだろう。
 皇太子は聞きながら、なにやら考え込んでいる。

「国民主権か……珍しいものを主張しているよな。古い話で悪いが、二十世紀、二十一世紀において最大の覇権国であったアメリカでは、国民主権を主張していなかった。むしろ弱国の方が主張していたような気がするが、所変われば品変わるか」

 こいつ……我々よりもかなり歴史や政治体制を研究している。

「よくご存知ですな」
「民主共和制といえども、強力な指導者を欲する。また必要でもある。それらの別名は独裁者だ。結局最後は誰かが、決断して人を動かさなければならない。ルドルフやアーレ・ハイネセンの様にな。そうでなければ物事が動かない。帝国も同盟も変わらんよ。看板が違うだけだ」
「それでも主権は国民にあります。この点が帝国とは違う」
「それで? この泥沼の戦争について、自由惑星同盟の国民の誰が責任を取ったのだ?」

 なんだ。何が言いたい?
 戦争の責任を、国民に求めるのか?

「それはいったいどういう事でしょうか?」
「主権者が責任を持たずして、誰が責任を取るというのだ。政治家が辞任や落選をすれば、責任を取ったというのは、他国の者にとって何の意味も無い。無責任極まりないな」
 
 国民主権とは、責任は国民が自分で取れ、という事だと、皇太子が言った。
 同盟側だけでなく、皇太子の背後にいるカール・ブラッケなどの官僚達も息を飲む。

「閣下、それは……」
「帝国であれば、皇帝に対して文句を言ってもいい。しかし国民が主権者なら政治の責任は、自分の責任だ。文句の言いどころがない」
「厳しいですな」
「一国の責任者とは、厳しい立場に置かれるという事だ。楽そうに見える者はいても、楽な責任者などおらん」
 
 皇太子とはこういう男だったか。
 帝国二百五十億の臣民を、背負う立場である事を自覚している。
 そしてこちらにも、百五十億の同盟市民を背負ってこの場にいるのだろうと、突きつけていた。
 その上で自然体だと? 笑えるジョークだと言っている。
 だが、和平交渉はできる。できる相手だ。
 席に着くことを嫌がってはいない。
 ぎゅっと眼を瞑り、そして開いた。
 大きく息を吸い、吐く。

「我々は主権者である国民から委任され、国家を運営する立場にあります。そ
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