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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第38話 「皇太子殿下の二面性」
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いんだ。用が無いのであれば、席を立たせてもらう」

 そう言って皇太子がすっと立ち上がった。
 若いだけあって、動作が機敏だ。思えばまだ二十代の若者だ。

「お待ち下さい。帝国宰相閣下は、同盟との和平はお考えですか?」

 部屋の中に女性の声が響いた。
 ホワンだ。
 皇太子の視線がぴたりとホワンに向けられた。
 そしてもう一度、席に着く。

「私が宰相となって以来、出征を控えるようにしたが、それでも休戦状態はわずか二年しか持たなかったな」

 イゼルローン攻略の事を言っているのだろう。
 仮初めの休戦状態。
 それを同盟側から破った。シトレの言ったとおりだ。帝国側に戦争理由を与えるようなものだと。

「宰相閣下はそれでもなお、出征を控えておられます。和平の意志があると考えても宜しいか」
「戦争状態は続いている。勝手に都合よく解釈するな。門閥貴族ではあるまいし。卿らは民主共和制国家の政治家だろう」
「ですが、ここ数年、実際に戦闘は行われておりません」

 思わず口に出した。
 皇太子の視線がこちらに向けられる。

「実際に戦闘を行うだけが、戦争ではあるまい」

 取り付く島が無いとはこの事だな。
 冷静だ。
 この皇太子は冷静に状況を見ている。そして着実に手を打ってきている。
 その一例がフェザーンだ。
 帝国にフェザーンを取られた。二つの回廊を押さえられてしまっているのだ。

「とある記者が、宰相閣下の事を“理想的な専制君主を演じている”と書いていましたが、その事についてはいかがでしょうか?」

 ホワン、突然なにを言い出すんだ?
 この場で出すような話題では無いだろう。

「人は誰しも社会的役割を演じている。政治家ならば政治家としての役割だな。そして皇太子なら皇太子としての役割を演じなければならない。脚本がある訳ではないし、カメラがある訳でも無いが、それでも演じているだろう」
「では今の皇太子殿下は、本来の人物とは違うという事でしょうか?」
「それはそちらも同じではないかね」
「私は自然体で臨んでおります」

 皇太子が軽く笑みを浮かべる。哂ったのだ。
 バカにしたような笑みだ。
 ホワンの顔にさっと朱が差した。

「自然体で行える政治とは、楽で宜しいな。羨ましい事だ」

 がつんっと殴られたような衝撃だった。
 ここは帝国と同盟の交渉の場だ。その場において自然体でいられるなど、確かに楽ではあるのだろう。しかし皇太子は、この場の事ではなく。
 政治家としての動きを楽と評した。
 勝手に解釈するなと言いながら、しらっとした顔で勝手に解釈する。
 たいしたタマだ、この皇太子。

「卿らも何か質問は無いのか? せっかく民主共和制の政治家と会えたんだ。質
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