第百四十四話 久政の顔その九
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「そうじゃな」
「はい、それでは」
「わかった、では共に最後まで戦おうぞ」
長政も市の心を汲み取った、二人は共に戦い共に死ぬことを決意した。そのうえで織田の大軍に切り込もうと本丸の門を開けた。
その前には織田の大軍がいた、そしてその先頭には。
信長がいた、彼は誇りに満ちた笑みを浮かべこう二人に言った。
「市も来たか」
「兄上・・・・・・」
「なら余計に都合がよい」
市に対しても言う言葉だった。
「御主達に伝えたいことがある」
「伝えたいこと」
「それは一体」
「久政殿からの伝言じゃ」
久政の最期の顔を思い出しながらだ、信長は二人に語っていく。
「全てはわしの責、御主達に罪はないとな」
「何と、父上が」
「その様なことを」
「そうじゃ、そして織田家との戦は久政殿の本意ではなかった」
このこともだ、信長は二人に告げた。そして二人の後ろにいる浅井の者達にも。
「全ては二人の僧に操られてのこと」
「二人の僧、まさか」
「見ておったか」
「はい、杉谷善住坊と無明」
長政はここで二人の名を出した。
「あの者達でしたか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
信長はさらに告げていく。
「久政殿は腹を切られた」
「父上・・・・・・」
「見事なお最期じゃった」
父の死を聞き項垂れる長政にだ、信長はそのことも告げた。
「丁重に弔わせてもらう」
「有り難き幸せ」
「それでじゃ、猿夜叉よ」
今度は長政自身への言葉だった。
「久政殿はわしに伝えてくれた。御主は生きよとな」
「父上がですか」
「そしてわしに降れとな」
このこともだ、今長政自身に告げたのである。
「そう仰った、御主の父上のお言葉じゃ」
「父上がその様なことを」
「どうするかは御主が決めよ」
あえて今断を強いることはなかった、今はこう言うだけだった。
「よいな」
「それがしがですか」
「そうじゃ、御主が決めよ」
浅井家の主である彼がだというのだ。
「それまで攻めはせぬ、待っておく」
断を強いずしかも攻めることもしない、信長は長政にこうも言ってみせた。
「決めれば使者を寄越せ。ではな」
ここまで告げてそうしてだった。
信長は踵を返し悠然と彼等に背を向けて去っていく、ここで誰も信長のそのがら空きの背を撃つことは出来なかった。
後に残ったのは長政と市、そして浅井の者達だ。浅井の者達は怪訝な顔になりそのうえで長政に問うた。
「殿、ここは」
「どうされますか」
「うむ、まずはな」
一呼吸置いてからだ、長政は彼等の問いに答えた。
「本丸の中に戻る、そしてじゃ」
「それからですな」
「お決めになられますな」
「そうする、ここはな」
こう答えてだ、浅井の者達も一旦本丸の中に戻った。そのうえで
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