第百四十四話 久政の顔その八
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久政の首が落ちた、信長は最後まで見届けてから武者に対して言った。
「立派な最後であったな」
「有り難きお言葉」
「丁重に葬らせてもらう、御主もご苦労だった」
武者は信長に静かに一礼して応えた、久政の亡骸は織田家の者達に運ばれていった。その際首もしっかりと柄杓の柄と糸でつなげられた。
信長jは久政を最後まで見届けてから己の後ろに控える諸将に顔を向けて命を伝えた。
「ではな」
「はい、それでは」
「今よりですな」
「本丸に向かう、そしてじゃ」
「猿夜叉殿にお伝えしましょう」
「久政殿のお言葉を」
「猿夜叉は果報者じゃ」
信長は京極丸を後にしていた、京極丸は後始末の兵達以外は皆本丸等に移っていた、その中でのやり取りだった。
「家臣に民に女房に子に」
「そしてお父上もですな」
「見事な方でした」
「そしてそれに相応しい者じゃ」
その果報を受けるに相応しいというのだ。
「だからこそじゃ、よいな」
「はい、何としても」
「お命を」
「では本丸に向かう」
長政のいるそこにだというのだ。
「ではよいな」
「畏まりました」
諸将も信長の言葉に応える、そうしてだった。
信長は本丸の前に来た、既に本丸は十万以上の兵に囲まれ信長の命一つで押し潰されんとしていた、長政はその本丸から信長の姿を認めた。
そのうえでだ、傍に控える市にこう言った。市の周りには男の子が一人、そして女の子が三人いる。
その子達も見つつだ、彼は市に告げるのだ。
「京極丸が落ちた」
「では義父上は」
「うむ、おそらくな」
討ち死にした、長政はそう見ていた。
「だからわしもじゃ」
「左様ですか」
「市、御主は生きよ」
長政は市と子供達に告げた。
「わしが腹を切る、さすれば兄上も他の者の命は取るまい」
「では殿御自身だけが」
「責は主が取るもの、だからな」
それでだというのだ。
「御主達は生きよ、よいな」
「いえ、私もです」
だがここでだった、市は長政に対して毅然としてこう言った。その目は彼女の兄である信長を彷彿とさせるものだった。
「殿と共に」
「馬鹿な、戦うというのか」
「はい、こちらに」
こう言って薙刀を出す、そのうえで。
服を素早く着替えてきた、浅井の紺の服に具足、それに陣羽織だ。
長く黒い見事な髪はそのままで額には白い布を鉢巻にしている、その凛とした出で立ちで長政の前に戻ってきたのだ。
そのうえでだ、毅然として言うのである。
「私も共に」
「何を言う、おなごが戦うことなぞ」
「巴御前もそうだったではないですか」
市は微笑み源平の時の女傑の名を出した。
「あの方の様に」
「御主も戦うというか」
「殿と共に」
「言っても聞かぬな」
市のその目を見てだ、長政
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