§35 白銀の軌跡と漆黒の螺旋
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前の光景は到底理解出来るような物ではない。
「うん。だいぶいいカンジだわ」
ここに最も得意な武器で、ドニと互角に張り合っていた頃の黎斗の面影は残っていない。連戦に次ぐ連戦は、黎斗の鈍っていた腕を確かに呼び覚ましていた。満足げな声と共に、腰を深く落とす。直後、頭上すれすれを銀の軌跡が通り過ぎた。
「くっ…… 本当に、強いねぇ……!!」
ドニの声にいつものような暢気さなど無い。一部の隙も見逃すまいと冴え渡る瞳も、全てを切り裂く究極の剣も、今は無意味。
「せッ!!」
左右交互の二連撃。水月で交差する筈の斬撃を防ぐのは、旧き英雄の権能たる鋼の肉体。攻撃を表面上は阻みきったように見える。が、
「斬鉄出来ないワケ、ないでしょ?」
「!?」
神をも葬る秘奥の一、斬鉄。とある剣豪が生み出した、東洋に生まれし神を殺める為の技術。人の業が神を超える、その証明者であるドニも斬鉄が出来ない訳ではない。だが、眼前の少年が世界でも稀少な業の使い手だとは思わなかったのだろう。瞳に写す驚愕と連鎖し、鋼の体躯に傷が走る。舞う血飛沫と共に黎斗の得物も砕け散る。
「やっぱ傷程度か。……こっちは壊れたのにさ」
瘴気を帯びた二振りは粉々になった。いかに神殺しの秘奥といえど、本物の神の力を前にしてはやはり厳しいらしい。全存在を賭けてつけた傷がかすり傷とは。これでは武具も浮かばれまい。
「いろいろひどい。やっぱ理不尽だわ」
不満を告げる少年の手には、波打つ炎の剣が二振り。黎斗の陽炎の如き動きは、ドニに間合いも、攻撃の気配も察知させない。瞬時に変わり続ける動きは心眼をもってしても易々と捉えられるものではない。瞬時に迫る黎斗は再び斬鉄。いとも容易く秘奥を放つ様は、異端の天才と呼ばれたドニも舌を巻く。
「今日は武器の大盤振る舞いだ」
死の宣告は簡潔だった。鋼の体を切り裂くまでには至らないが、己が命と引き替えに肉体に傷を与えていく無数の剣達。破砕音とドニの傷痕はただひたすらに増えていく。彼の抵抗は、全て紙一重で躱されて、一撃たりとも当たらない。
「痛っ、痛い痛い痛い……!!」
緊張感の無い声が、致命傷を受けていないことを教えてくれるが、いつまで保つかは時間の問題だ。あのサルバトーレ・ドニが防戦一方という異常事態を、誰が予想しただろう?
「水羽黎斗、一体何者だ……」
まさか武の極みにも匹敵する剣才が及ばないとは。
「前回での一件では加減していた、とでもいうのか……!?」
賽巻きにされ戦慄する苦労人は、震える奥歯を噛み締めた。少年の姿をした未曽有の
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