第三章
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「あれが」
「ああ、連中はすぐに来るからな」
「やばいな」
今は何もいない空を見て彼等は怯えも感じていた、とにかく彼等は今は逃げなければならなかった。それ以外に為す術はなかった。
撤退は続いていた、陸上部隊には追いつかれなかった、だが。
空から来た、ダンケルクまで少しというところだったがそこでだった。
兵士の一人が上を指差した、そして悲鳴にも似た声をあげた。
「空にです!」
「スツーカか!」
「来たか!」
「はい、来ました!」
こう叫ぶ、そして実際にだった。
青い空に十二の黒い影が舞っていた、そのシルエットはまさにスツーカの独特のものだった。
スツーカ達は連隊長も見た、彼はすぐに命令を下した。
「全軍散開しろ!」
「は、はい!」
「そしてですね!」
「何とかやり過ごせ!ダンケルクは目の前だ!」
とにかく損害を抑えろというのだ。
「いいな、今は!」
「は、はい!」
「それでは!」
皆連隊長の言葉に応える、フランス軍の軍服が乱れて動いた。
マルゴットもその中にいた、その彼に連隊長が叫んだ。
「マルゴット中尉!旗を捨てろ!」
「連隊旗をですか」
「旗は狙われるぞ!」
空からもだ、まさに絶好の目印になるからだ。
「だから捨てろ!君が撃たれるぞ!」
「いえ、旗は護り抜きます!」
マルゴットは命令に忠実な男だ、だがここはあえて連隊長にこう返した。
「これは連隊の誇りですから!」
「その意気は褒める!しかしだ!」
スツーカに狙われては彼もだというのだ、スツーカ達はその間も始終攻撃を続けている。
得意の急降下爆撃を繰り出した後は機銃掃射だ、連隊は彼等から逃げ惑うことしか出来ない有様であった。
その中でだ、連隊長は彼に言ったのである。
「君が死ぬぞ!」
「生きてみせます!」
マルゴットはまた連隊長に叫んだ。
「ですから!」
「そこまで言うのか」
「はい」
確かな声でだ、彼はまた答えた。
「ですからご安心下さい」
「そこまで言うのならな」
連隊長もその言葉を受けた、そしてだった。
確かな顔でだ、こう彼に言った。
「では必ずだぞ」
「はい、旗を護ります」
「そのうえで生きろ」
絶対にだというのだ。
「いいな」
「わかりました」
こうしたやり取りをしてだった、そうして。
彼は旗を持ち続ける、だがやはり連隊旗は目立ちスツーカ達から見ても格好の的だった、それでだった。
一機のスツーカが彼のところに来た、連隊長はそのスツーカを見てすぐに彼に叫んだ。
「来い!」
「!?何処に」
「こっちだ!来い!」
丁度目の前に厩があった、農家の厩らしいが主は既に馬達を連れて逃げたのか中に派一頭の馬のいなかった。
「あの中に入れ!」
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