第一物語・後半-日来独立編-
第五十七章 解放《2》
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鳴。お前と一緒にいて、そいつらにお前は悪い奴じゃないってことを解らせる」
「一緒にいる必要があるのか、それは」
「あるに決まってるだろ。今お前をこの世界でいっ……ちばん、愛してるのはこの俺なんだぜ?」
「何を言っている。私は、お前など愛してはいない」
頭を掻き、一悩みするセーラン。
解放が進んでいくなかで、ある一言を奏鳴にぶつけた。思っていた、その一言を。
「質問だけどさ。なんでお前は俺のことが嫌いなんだ?」
「いきなりなんだ」
「どうして俺のことが嫌いなんだ。教えてくれよ」
数歩、奏鳴は後ろへと下がる。
距離を離し、それが今の二人の距離なのだと誰もが思った。
「好きとか嫌いとか、まだそういう関係じゃないだろ。なら聞くが、お前は私のことがどうして好きなんだ」
「一目惚れ」
即答だった。
迷うことなく、自然に口から出た言葉。
「前に俺達は会ったんだよ。ここ辰ノ大花で」
「過去にお前とは会ってはいない」
「もし時が経っても、世界がまだマシだったならさ――一緒に見に行こう」
この言葉は。
「何故、お前がその言葉を」
三年前ぐらいだ。
自分がまだ中等部三年生の時に、屋敷に現れたフードを被った者に言われた言葉。それを何故、初めて会った日来の長が知っているのか。
疑問と同時に混乱が起こった。
恐怖に似た感情が、奏鳴の足を更に後ろへ数歩動かした。
「俺はちゃんと来たぞ」
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ……」
「お前に会えなかった三年間。俺は日来の独立ために覇王会に入って、準備を進めて来た」
開いた距離を詰めようとはしない。
もうこちらの気持ちは変わらない。後は奏鳴自身の意志で、開いたこの距離を縮めるかだけだ。
「そんな時に、お前が解放されることを耳にした。だけどすぐには動けなかった。日来の独立の準備がまだだったんだ。惚れたお前を救いたいと同時に、俺を受け止めてくれかこの日来も救いたかった」
一礼し、
「本当にすまなかった。一刻も早く救いに行っていれば、そんなにも苦しまずに済んだのにな」
目の前の現実を受け入れられなかった。
あの時屋敷に来たのが、日来の長だったということを。
描いていた人物とは程遠く、違った。なのに。何故。
「やっと、やっと辿り着けた」
何故、ほっとしている自分がいる。
目頭が熱くなっていく。
自分自身であっても訳が分からなかった。
目の前の人物が、あの時の。
こちらに微笑み掛けているその口は、フードから覗くように見えたあの時と同じ形だった。
頬を持ち上げ、口端を微かに上げる。
不思議なくらいに鮮明に憶えている。
「救いに来たぜ、奏鳴」
信じがたい事実だった。
偶然なのか必然なのか、それとも運命というものなのだろうか。
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