第一章 平凡な日常
7、宝とは何なのか
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部屋に入ると、身に覚えのない段ボールの山が積まれていた。
聞かなくたって分かる、銀が持ち込んだに違いないんだ。
オレは段ボール箱を閉じているガムテープに手をかけると、綺麗とかお構いなしに破った。
そして、次々とその中身を床に散らしていく。
何着かのメンズの洋服に並中の制服に学生書、その他諸々これから生活していくにあたって必要になるであろうものが殆ど揃えてあった。
だからこそ、その存在が一段と異物のように感じた。
「…………」
そこにあったのは、サファイアを模した青い石が埋め込まれているチョーカー。
本来ならここにあるべきでないものに違いはなかった。
このチョーカーは、前世での唯一無二の親友からもらった唯一のプレゼントだ。
だが、この世界ではあいつと会うことはなかった。
だからここにあるはずなんてなかった。
「それ、オレが頼んでおいた」
「は?」
突然に口を開いた銀。
「本当はな、前世のものを持ち込むことは禁止なんだが、オレが上に掛け合って許可してもらったんだ。大切なもんなんだろ?」
「ああ。サンキュな」
オレとあいつを結ぶ、オレとあいつの絆があったことを示すたった一つのアクセサリー。
大事な大事な宝物だ。
前世でだって肌身離さず身につけ、片時も手放さなかったくらい大切な宝物だ。
「宝って何なんだろうな」
不意に、そんな言葉が聞こえた。
銀を見ると、彼はオレのチョーカーを見つめたまま悲しそうな表情を浮かべていた。
「オレにも、そんな存在がいたような気がするけど、昔過ぎて何も分かんねぇや」
「……銀?」
「あっ……いや、なんでもない。気にすんな!」
そう明るく言ってくるが、なんだか今の一瞬、銀の中の何か闇を見てしまった気がしていた。
宝って何なのか。
形ある物でも、形のないものでも宝になることはできると思う。
このチョーカーだったり、思い出だったり。
不意に、哲学じみた考えに走りそうになる。
「ガラじゃねぇよ」
軽く頭を振って、チョーカーを首に取り付けた。
窓から差し込んだ夕日が、碧い石を照らし、綺麗に反射していた。
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