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たのは、またしてもカグラだった。
「その前に一つ、お頼み申し上げてもよろしいですか?」
「あぁ?頼みぃ?」
「はい。あなたが言う《勇敢な人達》には、私達はあなたの出した試練を潜り抜けてきたということですよね。ならば、一つほど褒美という形でお願いをさせて貰ってもよろしいでしょうか」
そう言って、カグラは腰を折る。しかし、腰を折ったといっても決して九十度ではない。ほんの数センチ、軽い目礼よりもなお小さいくらいに動かした。急所である首を、この極限的な状況の中で敵に差し出すほどカグラは間抜けではない。
試練?とレンは首をひねる。そんな物あっただろうか。
しかし、次の瞬間レンは思い出した。
天空から降ってきたカード型オブジェクト、システム管理者用のIDコード。
あれを落としたのはマイかアスナだと思っていたが、目の前のモノだったならば話は百八十度変わってくる。
カグラはあえて《試練》という言葉を使ったが、レンからしてみればそれは悪意百パーセントの物でしかない。
『んー、一応中身だけ聞いとこうか』
「ありがとうございます。私どもからの頼み。それは、そこにいる少女の身柄をこちらに引き渡してもらえないでしょうか」
もらえないでしょうか、とカグラは言うが、言葉を発したが、その言葉はこれ以上ないくらいに命令形であった。頭ごなしに、マイを返せと命令していた。
だが、当の少女は首を振るう。
その時、レンはやっと先程から彼女が口パクで叫んでいる内容が判った。
────逃げて────
『嫌だね、ばぁーか』
ドン!!!と空中の空気の質全てが反転する。
まるでそれ自体が質量を持っているかのように、身体にかかる重力が二倍になったかのように、レンとカグラの足が地面に固定された。飛んでいたユイに関しては、悲鳴とともに地面に打ち付けられた。
ギシギシ、と体中の関節が悲鳴を上げているのが分かる。
擦り切れた脳はのた打ち回り、頭蓋骨が砕け散らんばかりの痛みを発する。
「ご………ぉッ……」
「ぎ…ぁ…………っ」
「レン!カグラ!ユイ!」
『あっはははぁーッッ!弱っちいねぇ。それとも、逆に強いのかなぁ?僕じゃぁ、そんなに弱かったら耐え切れなくて自殺しちゃうよ』
「………ふ……ざっ…………」
怒声を糧として、立ち上がろうとするレンの頭を狂楽と名乗ったモノは、アスナの物だった右足で無造作に蹴り飛ばした。
鈍い音がし、小柄な身体が転々と転がっていく。それを追いかけるように、マイの悲鳴が空気の層を叩いた。
檻の格子に激突し、それを軽く凹ませながら停止した少年の口から、ごぷっという音とともに真紅の血の塊を吐き出した。
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