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レンズ越しのセイレーン
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Epilogue
Epilogue アンドロメダ
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か娘みたいな、特別な友達だから」と彼は答えた。とても、寂しそうに。

「この子は待ってるんだ。帰って来るのを。あいつが帰って来るまでにくたばることは絶対ない」

 誰を、どういう理由で待っているのか。2年も経てばノヴァも何とはなしに理解していた。

 ノヴァはそっとユースティアの手を握った。槍を扱っていたと聞いた手は、2年の入院生活ですっかり少女らしく柔らかいものになっていた。

「待っててもね、帰って来ないんだよ。それでもずーっと待つの?」

 眠るユースティアは返事をしない。それが返事に思えた。頑として態度を変えないという返事に。

「……そっか。ユースティアは強いね。羨ましいよ」

 ノヴァの周囲は変わらずにいることを許してくれない。

 2年も働けば、職場のお節介な中年が忙しなく縁談を持ちこんでくる。そうでなくとも、同僚も結婚に意欲的になり、どこそこのコンパに行かないかと誘ってくる。

「あたし、もう、挫けそうかも」


 その時だった。
 握っていたユースティアの手がぴく、と震えた。


 硬いてのひらは、弱々しく、されど精一杯に、ノヴァの手を握り返した。

「ユー…っ」

 ノヴァは椅子を蹴倒して身を乗り出す。だが、すでに彼女の手から小さく懸命な握力は消え失せていた。

「……あは。ユースティアは厳しいよね。挫けたくても、これじゃしばらくはできないじゃん」

 ユースティアが死体同然でも生命活動を維持しているのは、本人の意思の力だ。
 ユースティアはただあの人を待っている。あの人が枕元に立ち、もう終わりにしていいと告げるのを待っている。
 その宣告を得られた時、この少女はようやく頑張るのをやめて、眠ることができるのだ。

 ノヴァは握り返してきた手を持ち上げ、両手で強く包み込んだ。


(あたしは、ルドガーとユリウスさんを待ちたい。それが実を結ばなくても。結果じゃないんだ)


 世間があの兄弟を忘れても、ノヴァだけは覚えていて、そして帰りを信じ続けよう。この世の条理に逆らってまで己を生かすこの娘と一緒に。


(待ってます。この子と一緒に。ねえ――     ?)


 ユースティア・レイシィは今日も生きている。無数の管に繋がれて、運命の人を待っている 。
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