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レンズ越しのセイレーン
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Epilogue
Epilogue アンドロメダ
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 初めて病室に入って、ベッドに横たわるその子を見た時、ノヴァは泣いた。

 何故かは知らない。だが、分かったのだ。
 その子が誰の血を引いた子で、誰のためにがんばったのか、誰のためにこの結果を迎えたのか。







 ノヴァは病室の前で花束を抱え直し、ドアをノックした。返事がないのは承知の上だがマナーとして欠かしてはならない行為だと思っているからだ。

 案の定、沈黙だけが答えた。もう慣れていたノヴァは、病室のドアをスライドさせて中に足を踏み入れた。

 ベッドがある。その上に一人の少女が横たわっている。
 入院から2年過ぎた今では、女性と呼ぶのがふさわしいかもしれない。癖の強い金茶の髪は切られないまま長く伸びた。白い肌には至るところに管が繋がれ、計器の音が無機質に、彼女の生を知らせる。

 ノヴァはベッドサイドまで行くと、イスに腰かけて、彼女の前髪をそっと払う。

 患者の名は、ユースティア・レイシィ。
 ノヴァが慕っていた――2年前に死亡の報が出されたユリウス・ウィル・クルスニクの、「特別な縁者」。







 2年前。突然の訃報は、姉のヴェルからもたらされた。

 クランスピア社副社長ルドガー・ウィル・クルスニク、および、通信部門元主任ユリウス・ウィル・クルスニクの両名が死亡。

 ――副社長って何よいつの間にそんなにえらくなったのユリウスさんより出世ああユリウスさんは今指名手配されてるからそもそもクラン社の社員じゃなくなったんだっけクラウンエージェントなのにちゃんと調べもせずに切っちゃうなんてクラン社も見る目ないよねってそうじゃなくて今ヴェル何て言ったお姉ちゃん何て言ったルドガーが死んだってユリウスさんが死んだってねえどういうことなの何があったの高校卒業してから会ってなかったのに何でいきなりこんな訳分かんない知らせ事務連絡なんかで聞かなきゃいけないの――

 駆け巡った感情をどれだけ電話口でぶつけたかは覚えていない。ただ、上司に引っぺがされて、別の子が電話応対を変わったから、相当暴れたのだろう。

 家に帰って散々ヴェルに当たってわんわん泣き喚いた。ヴェルはそんなノヴァを抱いて、彼女自身も泣いていた。クランスピア社の男どもはヴェルが鉄面皮だと冷やかすが、ヴェルはノヴァからすればとても繊細で感受性が強い。あれは心の鎧なのに。

 しばらくそんな生活を送った。朝は互いの職場に出かけ、夜に帰宅して食事し、ただ何をするでもなく肩を寄せ合って、時には泣いた自分を片割れが慰めた。

 ある日、ヴェルがノヴァに告げた。
 今回の事件で今も入院中の人物がいる、その人物はユリウスにとって特別な血縁だ、と。

 会うかと問われ、ノヴァは一も二もなく肯いた。

 ルドガーで
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