第3幕 夏侯元譲
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らかに自身の失態である。
「んっ……コホン。そ、そうね。私が気をつけるべきだったわ。貴方は何も知らなかったのよね……」
「……一人で何を納得してるんじゃ? で、その真名ってのはなんじゃい」
「真名はね……その人の全てと言ってもいい、真なる名前。その名前を預けるということは、自身の全てを預けるという意味なのよ。だから、本人の許可無く“真名”を口にすることは、問答無用で斬られても文句は言えないことなの」
「……まるで諱じゃな」
「いみ、な?」
「やはり知らんのか……ワシにもそういう名はある。本来なら口にも出さんが……まあしょうがない。ワシの諱は秀久。仙石権兵衛秀久というのがワシの本来の名じゃ」
「!? 貴方……真名を預けるというの?」
「は? じゃからワシには真名なんてない。諱とはの。本来は呼んではならんが、別に殺すほどのものでもないわい」
諱は、本来呼ばれるべきではないが、他者が罵声で呼んだり、本人への呼びかけでないところで呼んだりすることもある。
ゴンベエが信長を名で呼ぶのもこれで、本人に対しては上様や官名で呼ぶことが普通であった。
だが、直接の上司であり、親しい秀吉に対しては、本人の呼びかけでなくとも『籐吉郎』と呼んでいる。
これは、秀吉本人が諱がない、農民上がりであるが故だった。
「諱、ね……それでも貴方にとっては真名に等しいのでしょう。その名を私に言うということは、預けると受け取っていいのかしら?」
「別に構わん。じゃが、ワシを呼ぶときはゴンベエでいいわい。そういう意味じゃ、ゴンベエがその『真名』みたいなもんじゃ」
「……っ! そう……なら私も真名を預けるわ。華琳、これが私の名前よ。これからはそう呼びなさい。貴方の真名は秀久だけど、ゴンベエでいいのね?」
「うむ。まあ、そちらの方がワシとしても助かるわい。で、曹……じゃない、かりん、じゃったな。で、あのしゅ……と、居なくても呼んではならんのじゃな?」
「ええ。彼女は夏侯惇元譲。呼ぶなら夏侯惇にしておきなさい」
「はあ……めんどくさいのう。で、あのおでこの真名とやらを呼んだから怒ったというわけか?」
「プッ……」
『おでこ』の渾名に、曹操が思わず噴出す。
「ん? なんじゃ?」
「い、いえ、コホン。そうよ。だから貴方に斬りかかった。本気で殺すつもりでね」
「……おっとろしいおなごじゃのう。もうやりおうたくわないわい」
「あら? その春蘭をあと一歩で殺すところだったのに?」
曹操は試すように問いかける。
だが、ゴンベエは間髪入れずに首を振った。
「無理じゃ。まともな立合いなら、百度やって百度殺されるわい。とても勝てる気がせん……が、戰場なら別じゃ。逃げて逃げて、いつかは勝つようにするがの」
「へえ……
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