第3幕 夏侯元譲
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(何処じゃ、ここは)
目の前には木格子。
(てゆーか、ワシ……なんで牢の中なんじゃ?)
以前にも似たようなことがあった。
あれは確か、野々村のとっつぁんと初めて会った頃だったような……
(あ〜そうそう。確かあん時は、伊勢長島の篠橋に間者として潜入して……)
呟きながら、昔を思い出すゴンベエ。
以前より、ゴンベエは間者としての才がある。
伊勢長島だけでなく、大国毛利の領内への潜入も行い、一年かけて詳細な地理を把握、その上鳥取城包囲網の本陣である、帝釈山近辺の詳細な情報を得るという功績を成している。
「あ、んなの思い出しとる場合じゃなかった! ここはどこじゃっ! って、いたぁっ!?」
思わず叫んだ拍子に、胸の健が引っ張られるような痛みを覚える。
その時になってようやく、ゴンベエは自身が上半身裸で白い布――包帯まみれであることに気づいた。
袴は履いているが、上着は影も形もなかった。
「な、なんじゃこれは!? わしゃ、一体どうなったというんじゃ!?」
痛みを押さえつつ、木格子越しに外を見る。
見ればそこは、どこかの城の牢獄であることが見て取れた。
薄暗く、湿気のこもったカビ臭い空気。
蜘蛛の巣とネズミが徘徊する、不衛生な環境。
そこに居たのは、ただ一人の見張りの姿であった。
「こらあ! ワシを出さんかい! というか、なんでワシは牢におるんじゃ! 答えんかい!」
「うるさい! 静かにしていろ!」
見張りは苛立たしい声で、手に持つ槍で木格子を叩く。
その衝撃で、思わず木格子から手を離したゴンベエは、一歩下がりながらもなお叫んだ。
「わしゃ、怪我人じゃぞ!? というか、どうしてここにいるのか説明せんかい!」
「やかましいといったぞ! ここに幽閉したのは陳留刺史、曹孟徳様の命令だ! 貴様は罪人なのだぞ!」
「はあ!?」
曹孟徳……その名を聞いて思い出す。
記憶にある、おそうという女童。
彼女が名乗った名前が確か、曹操孟徳といった。
(曹孟徳……姓が曹、名が操、字が孟徳と言っとった。字? 諱でなく?)
ゴンベエの時代、戦国期の日本の武士は、姓、通称、諱で構成されている。
名とは、その3つが重なった総称であり、中国のそれとは違うのであった。
多少、中国の知識があれば、それもわかったかもしれない。
だが、ゴンベエはお世辞にも知識があるとはいえなかった。
(どういうこっちゃ……名乗りすら、常識が通じん。ワシは一体どこに来たんじゃ)
見知らぬ土地、見知らぬ常識、そして見知らぬ状況。
全てが不明の今の状態に、歴戦の武士といえども戸惑いを隠せない。
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