暁 〜小説投稿サイト〜
世紀末を越えて
プロローグ
エンカウント・ツー
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
ひょっとすると、あのとき彼女はうなされていたのだろうか。あの彼女がうなされる様な夢とはどのようなものなのだろう。恐らく僕がどれほど考えた所で答えは出ないであろう。今度機会があれば聞いてみたいものだ。しかし当然それは無理なことだろう。そんなことを考えつつ、僕は眠りにつこうとした。その後幾らか時がながれたかもしれない。それなのにどういう訳か中々寝付けない。何やらとても寝苦しい。窒息してしまいそうだ。そんな夢か現かも分からない中、無の裏から気づくと奏でる音色が、ふと僕を唯一の僕として落ち着かせたのだ。

声を聞いたような気がした。

あなたは、樂間啓、そうですね?
 
随分とゆったりとした口調だ。しかしその口調と声色は聞いていてとても心地が良いものだ。既にそこは僕の知る空間ではなく、僕は知らない部屋に来てしまったようだ。白い部屋。その部屋の中央、そこに在る肘掛け椅子に、一人の女性と思しき人物が、他の雰囲気と何の干渉も起こさず、当たり前のように、そこに「居た」。
「そうですが。」
 
樋泉あゆを知っていますか?
 
「ええ、その人なら僕が一番良く知っていますよ。」
 
それは良かった。ところで貴方に信じる者はありますか?
 
「神、でしょうかね。仮に神という存在が本当にいるとするなら、僕がその神に捧げることが出来るものと言えば、信仰心くらいのものです。そうでしょう?神は全能なのですから。僕にとって神とは、万物をこよなく愛し、世界の成り立ちを支える世界そのものなのです。しかし少なくとも貴方は僕に語りかける時点で神とは異なる。それにしてもいきなり随分と不思議なことをお聞きになるのですねああ、目が冴えて来たじゃないですか。」
 

すみません、元々私はあなたに鍵を渡しに来たのですが、私があなたに直接渡す事は出来ません。貴方の仰る通り、少なくとも私は完璧な存在ではありませんから、申し訳有りませんが、後日彼女の元へ届けてはもらえないでしょうか。

別に、構いませんよ。お安い御用です。
 
そうですか、そう言ってもらえると助かります。では、また会えるといいですね。さようなら。

 風のざわめく午後の授業。ややもの寂しくある教室に響く教師の声に耳を傾けること無く、僕は昨晩の出来事について思い返していた。あの声が時間を超えて今でも僕の耳に語りかけている様な気がした。そのイメージを無くしていまわないように、繰り返し、繰り返し僕の心の中で反芻させる。あの声、あの雰囲気。一方的ではあるが、僕に取って一番大切な人と言えば紛れも無く彼女のことなのであるが、昨晩僕の夢と思しきものに出て来たあの人からは、どこか彼女と似た何かをその身に宿していた様な気がした。あれは本当に僕が外の世界から感じ取ったものなのであろうか、しかし逆に夢の中の出来事であったと
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ