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世紀末を越えて
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エンカウント・ツー
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か、最も単純な異変に気づかなかった。その蝶の羽の一つはくしゃくしゃに折れていたのだ。
僕が触ろうとすると蝶は嫌がった。まあ当たり前か。
 僕の目の前は最早霧が立ちこめており、その先の様子は分からず、ひたすらに真っ白であった。ここは島のちょうど端に位置するというのに、以前聞こえた波の音の大きさも、どういうわけか全く変わっていない。しかし本来ならば僕の目の前は崖若しくは海が広がっている筈だ、それでも蝶は僕に前へ進めという。さすがにそれには従いかねる。
 僕の挙動にしびれを切らしたのか、蝶は僕の足下から、立ちこめる霧をひらひらと羽ばたきながらゆっくりと切り開いていった。最早音など何も聞こえなくなっていた。そこから見える道らしきものはごつごつとした岩肌でも、砂浜でもなく、霧と同じように白い道であった。その道を進むとやがて、その場所のみぽっかりと霧の開けた場所に出た。

そこで、僕は見た。

一人、いや一つ佇む。人の形をした、黒き異形の姿を。まるでその黒は、霧に溶けているように拡散、収束を繰り返し、人が人を認識するための常識で観測するならば、顔と思しきものは確かにあるものの、一体何どのような形の目をしており、口を、鼻を、髪をしているのかはまるで見当もつかない曖昧なものであった。そしてその黒き異形の周りには、数えるのが困難な程の、黄金の蝶が舞っていた。

蝶ではなく、異形が問う。

蝶に導かれて来たか。お前の名前は樂間啓。そうだよな?

「…そうです。」

僕はたじろく。こいつとは、何か関わってはいけない気がする。

ほうら、こっちへおいで…

僕の側にいた蝶は、異形の元へ飛んでいった。

ほう…この蝶はまた…よくもここまでこれたものだ。この蝶に導かれたお前にも、何かそういった理由があるのだろうな。

何時から僕の世界はこんなにも、こんなにも素敵なものに溢れたのだろう。ついこの前まで、僕にとって本当に素敵な人物は彼女だけだったというのに。

「理由?そんなもの、僕は知りませんよ。」

ああ、そうだろうな。だが私には分かる。恐らく、お前はあれを拾わねばならぬのだ。

異形の示す先に、何かがあった。金と銀に輝く何か。目を凝らして見ると、それはどうやら鍵の体を為しているようであった。不可思議なことだ。まさしくこの状況そのものもそうであるが、全てあの、「少なくとも神ではない者」の言う通りの事柄なのであろうか。

そういった、何かしら「理由」を持つ者には、私という存在を認識してもらわねばならぬ。私は…私は神でも世界でもない。真に全てを知りうるのは神か、ただ在るように在るお構いなしの世界のみであるというのに、全てという範囲も知らずに全てを知った気でいる傲慢なものである。

樂間は言う。あなたが人間であるならば。


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