閑話1 〜追憶の日々【暁 Ver】
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ナカジマ候補生が廊下の角から現れた。額に汗をかいているところを見ると、無様にも彼女から逃げ出したあたしを探していたらしい。だが、これだけは聞いておく必要があった。
「何? その呼び方」
「え? あ! え、と……前からそう呼んでみたいなぁなんて……や、やっぱりルームメイトであるわけだしっ、……馴れ馴れしかった?」
彼女の狼狽ぶりがおかしかったが、顔には出さない。
「……別に呼び方なんか何でも良いけど」
「そう、よかった」
ティア、か。何だか背中の辺りがむず痒くなるような感覚がしたが、悪くないと思った。振り返ってみれば、兄さんが亡くなってから一人で生きてきた。……集団生活に馴染めなかったのは、あたしも一緒だ。それどころか、あたしは顔だけ後ろを向きながら全力疾走していたのだ。本当に嫌になる。変わらなければいけない。違う、元に戻るんだ。執務官を目指していた兄さんを応援していたあの頃に。
「ねぇ、ティア。……ちょっと食堂に行こっか」
桐生さんが食事をしている。それ自体は別に珍しくはない。座る場所を確保するのに苦労するくらい混んでいるのに、彼女の周りだけぽっかりと席が空いていなければ。あたしが言っても説得力はないけど、ここの連中は子供ばかりなのか。
「いつもあんな感じなんだ。酷いよね。……ううん、酷いのはあたしも一緒。知っていたのに、今まで何も行動しなかったんだから。だけどもうって、ティア?」
「何してるのよ。早く来なさい──── スバル」
「……うん!」
やっぱり背中がむず痒かった。
「ここ良い?」
案の定、無視される。何やら周りの視線が集まっているが、知った事じゃない。何もしないあなた達に、そんな目を向けられる筋合いはないわ。何もしないのなら目と耳と口を閉じた猿のように、じっとしていればいい。
「お兄さんがいるのよね」
「……いる」
やっぱり反応があった。偶然とは言え彼女を調べていたのが幸いした。なんだろう、適切な言葉が浮かばない。強いて言えば……妹の感、だ。
「あたしにもいるのよ。もういないけど」
「……なんで?」
「あたしが小さい頃に死んじゃったの」
会話が続いたのも驚きだが、その時初めて彼女の瞳に感情らしきものが覗えた。それにしても、この娘は受け答えが一拍遅れるな。声も小さいし、人と話し慣れていないんだろう。あたしが更に彼女へ話しかけようと口を開きかけた時、あまり関わり合いになりたくない人間が現れた。
訓練校での有名人。尤も悪評でだが。親が管理局の高官らしく横柄な態度と、不遜な言動が目立つ人物だった。しかも、無能ではないものだから誰も意見でき
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