閑話1 〜追憶の日々【暁 Ver】
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だろう。
「ちょ、ランスターさんっ」
あたしは逃げ出すように部屋を飛びだしていた。だって仕方ない。ずっと目を逸らしてきた今の自分に気が付いてしまったんだから。あの日……兄さんの死を侮辱されたあの日からあたしは『ランスターの魔法』は役立たずじゃない……それを証明する為にがむしゃらに走ってきた。
陸士訓練校に入学したのも……勿論、『空士』の適正がなかったという理由もあるが、一番の理由は人脈作りの為だ。訓練校には七光りの坊ちゃんや、強いパイプを持っている教官もいる。いざとなったら──── 自分を差し出しても良いとさえ考えていた。
本当に呆れて物が言えなくなる。よく考えなくてもわかる。……もう少しで、あたしが兄さんの死を侮辱するところだった。兄さんの墓前で……もう死んでいる兄さんを平気で貶めた彼らと同じになるところだった。いつからあたしは──── こうなったのだろう。
あたしが肩を落としながら廊下の角を曲がると……廊下の隅に誰かが猫のように丸くなっていた。最初は倒れているのかと思い慌てて近づいたが、どうやら寝ているらしい。安心しながら息を吐いたあたしの目の前を何かが鈍い羽音を立てながら通り過ぎていく。それは、蜂だった。あの時のミツバチだと思い至ったのはすぐだった。
二匹の蜂はまるで、寝ている彼女を護るように旋回している。あたしは夢でも見てるのかと思った。信じ難いが、その二匹の蜂を護衛するように三匹のスズメバチが新たに現れたのだ。……天敵の筈なのに。
あたしが近づくに近づけないでいると、廊下に寝ていた彼女が僅かに身じろぎする。彼女はむくりと起き上ると、あたしなど視界に入っていないとばかりに立ち去ろうとしたが、不意に静謐な瞳をあたしへと向けた。その視線は……置物を見るような視線だった。
「……だれ」
「この前、会わなかった? 名乗ってはいないけど、人の顔くらいは憶えて欲しいわ」
彼女は暫くあたしの顔を見つめていたが、不意に視線をあたしの肩口のあたりへと逸らす。
「……だれ」
何故か、同じ問いを繰り返した。誰かが背後にいるのかと思い、後ろを振り返るがそこにあるのは見慣れた廊下の姿だった。意味がわからないまま、彼女へ視線を戻した時には──── 彼女はすでに立ち去った後だった。
本当に変わってる。いや、変わっていると言うよりも、言葉の通じない生き物を相手にしているようだった。廊下で寝ていたのも意味不明で、他の生徒はおろか教官ともコミュニケーションをとろうとしない。……アレは退学ね、きっと。……あたしは自嘲気味に顔を歪めた。馬鹿をことを。あたしも大して変わらない癖に。あたしに彼女を悪く言う資格などない。
「ティアっ、やっと見つけた。突然飛び出して行っちゃったからびっくりしたよ」
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