閑話1 〜追憶の日々【暁 Ver】
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び出して行きそうな感じだった。あたしは桐生さんがどうなろうと知った事ではないが、こんないじめ紛いな真似は気分が悪い。自業自得と言う言葉を教えてやりたいが、仕方なく付き合おうと思った時にそれは起こった。
──── 何の冗談よ、これは。彼女が振るう腕に。足に。それにいったい、どれだけの力が込められているのか。桐生さんに殴られ、或いは蹴られた訓練生が風に煽られた木の葉のように吹き飛び、例外なく壁に叩きつけられていく。アレは違う。アレは戦闘などではなく一方的な……圧倒的なまでの暴力だ。
どんなに強くても数には適わない。これが一般論であり常識でもある。だが、これはあくまで同じ土俵に立っていることが前提なのだ──── 象に蟻が数匹群がったところで勝てるわけが、ない。
苦し紛れのように放たれた魔力弾も拘束せんと向けられたバインドも全て──── 幻のようにかき消えていく。足下を凍らせて動きを止めるような拘束も、そんなものは意味が無いとばかりに力任せに砕かれていった。
「……完全魔法無効化能力」
ナカジマ候補生が呆けたように呟く。完全……何?
「完全魔法無効化能力。『マジックキャンセル』。魔法が効かないんだって。見るまで半信半疑だったけど……」
本当にいったい何の冗談だろうか。何だそれは。レアスキル? あれほど『力』に恵まれている上に、そんなレアスキルまで持っているのか。……たちの悪い冗談だ。どいつもこいつも。あたしが喉から手が出るほど願った物を既に持っている。
──── こいつも『選ばれた』人間か。
ナカジマ候補生の何か言いたげな視線から逃げるようにして、桐生さんを見た。最早誰も動く者がいなくなった訓練場に一人立ち尽くしている姿。その時のあたしは、身を焦がすほどの嫉妬でおかしくなってしまいそうだったのに──── 無性に……桐生さんが寂しく見えた。
「入りたまえ」
あたしが僅かに緊張しながら教官室のドアをノックすると、中から氷のような返答があった。
「失礼します」
あたしが教官室に入ると、長身痩躯の男が出迎えた。──── ヨハン・ゲヌイト。あたしやナカジマ候補生の担当教官で、あだ名は『骨』。少なくともあたしは入学以来、この男が笑ったのはおろか微笑んだのすら見た事はない。窓際に立っていたゲヌイト教官は痩せすぎで落ち窪んだ目をあたしに向ける。
「用件は理解した。だが……何故、君が桐生候補生のデータ閲覽の許可を求める? 理由を述べたまえ」
「障害になり得る人間の情報を事前に入手し、対策を練っておくのは戦略として当然です」
あたしの返答に教官は眉を寄せる。間違ったことは言っていない。
「……了解した。『レ
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