閑話1 〜追憶の日々【暁 Ver】
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図だったかのように、二匹の蜂が彼女へ向かって飛んでいき、人差し指に留まった。二匹の蜂はまるで女王に付き従う兵士のように大人しくなっている。
彼女は自分の指に留まった蜂に暫く茫洋とした視線を向けていたが、思い出したようにふらりと踵を返して何事もなかったように去って行った。
「……なんだったのよ、まったく」
「さっきの娘が、あたしが言った変な娘」
「そうなの?」
「うん。桐生さん」
さっきの娘が、ね。変と言われれば……変だったけど。飛び回っていた蜂が、あの娘……桐生さんの指へ留まったのもどんな手品だろうか。ふと気がつくと、悲鳴を上げた上にあたし達に無駄な労力を使わせた同期の娘が、桐生さんの消えていったドアを見つめながら、何か得体の知れない物を見るような顔をしていた。後で知ったことだが、桐生さんの部屋から夜逃げ同然に出て行ったのが、この同期の娘だった。
「あ、あの」
そこまで黙って話を聞いていたキャロが、手を挙げた。
「あんまりアスナさんと仲が良いような感じがしないんですが……」
それはそうだ。アスナと出会った時の話なのだから。とある日にアスナの部屋で開いたちょっとしたお茶会。それぞれ手の空いている人間が、思い思いのお菓子を持ち寄っての『魔女のお茶会』だ。あたし達三人にキャロとエリオを加え、フェイトさんが保護者として憑いてきた。因みに誤字ではない。八神部隊長となのはさんも誘ったが、生憎と二人とも忙しいらしく辞退された。
フェイトさんはミルクティーに砂糖を一杯だけ入れると、物珍しげにアスナの部屋を見渡した。
「どうかしましたか?」
「うん。前にちらっとだけ見た事があったけど……」
フェイトさんの言いたいことは理解出来た。物がないのだ、アスナの部屋は。一言で言えば殺風景。ベッドとデスク。そして必要最小限の家具以外は何もない。デスクの上には別名『お兄さんホットライン』ことアスナの個人端末と、あたし達が出来るだけ視界に入れないようにしている『蟻飼育セット』。入ってるのが、土じゃなくて透明なジェルだから蟻のプライベートが丸見えで、いつ訴えられてもおかしくないほどだ。
そして……問題なのが、窓際にある一際大きな水槽。広大な土地と植物と大きな池まであるという箱庭だ。その箱庭の主は、脳天気な顔をしながら池の中を泳いでいた。そう……アスナが『地球』から拉致ってきたあの蛙だ。命名、『ぴょん吉』。
この蛙の処遇に関しては、紆余曲折、喧々囂々、一悶着も二悶着もあったが、調べたところDNAレベルでミッドチルダでも見られる種類だと判明した為に、大事には至らなかった。その御陰でアスナは始末書一枚で済んだわけだ。その結果彼は、今までよりも小さな世界で飼われることになって
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