第1部:学祭前
第4話『波紋』
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の……貴方にだけは、私のベースを聞かせても、恥ずかしくないと思って……」
「秋山さん……」言葉は少し間をおいてから、「実は、誠君も放課後ティータイムの演奏を聴きたいと言っているんで、一緒に聴くつもりなんですよ」
「そ、そうか……」何となく澪は、ほっとしていた。「それじゃ、何か悩みがあったら、遠慮なく打ち明けてよ」
「は、はい……」
あいまいに答えて、言葉は校舎を出た。
ふと澪は、一瞬不安になった。
唯を誠から引き離すことで、唯が今までのように、あの時のように笑ってくれなくなるのではないかと。
「澪……」
こっそりと二人の会話を盗み聞きしていた律に、唯が声をかけてきた。
「どうしたの、りっちゃん?」
「いや……」律は振り向いて、「澪って人見知りがちょっと激しいじゃない。自分からライブを誘うことなんて、今までなかったのに」
「そういえば、そうだね」
「それより、唯、どうすんだ? あんなこと言って……」
「やっぱり、どうしても、あきらめられないもの、」唯はうつむき加減に、「どういうことがあったのか、あまり分からないけれど、桂さんがあきらめられないように、私だってあきらめられないんだよ。
学校も違うから、あまり声もかけられなかったし……。 私の『好き』は、ずっと我慢する『好き』なんだ……。
でも、もう我慢できないんだ」
「唯……」
「マコちゃんに彼女がいるとは知ってたけど、それがかえって思いを強くして……思わず、声かけちゃった」唯は絞り出すように続ける。「声をかけるたび、一緒にいるたび、すごくうれしくて、ニコニコしているマコちゃんを見て、もっとそばにいたくなって。本当は彼女になりたい。無理だなんてわかってはいても、
思い……止められないんだ……」
大雑把な律も、何も言えなかった。
この時唯には、泊りがけで練習するのをやめにしたいという思いが、頭の中の大半を占めていた。
校庭に出てから、胸ポケットにある果物ナイフを確認し、言葉は走り出していた。
何やら、思いが制御できなかった。
誠を横取りしようとする世界や唯への、波のついた憎しみと、
こんな自分をかばってくれた、澪への思いとが。
その思いがないまぜになって、なぜか果物ナイフまで持ってきた自分が、馬鹿らしく感じられた。
話がこじれたら、唯と世界の首をナイフで切るつもりでいた。
しかし澪にかばわれてから、はらわたがよじくれるほど腹を立てていた自分が情けなく感じられた。
校門まで出てくると、
「桂さん!」
聞きなれたハキハキした声が届く。
世界が、校門で待っていた。
「どうしたの? こんなところに呼び出したりして。 それにどうして桜ヶ丘の前で?」
「それは…………」理由を言いだせなかったが、思いを抑え
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