第1部:学祭前
第4話『波紋』
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沢さんですか……貴方が…………?」
最初に口を開いたのは、言葉であった。
「え、ええ……そうだけど」
「なぜ伊藤君に……誠君に近づいて……誘惑なんかするんですか……?」
「誘惑……」
「聞きました。誠君が貴方に誘われて、貴方の家に一緒に行ったって。一緒に腕組んでたって」
「ち、違うよ……ただ喫茶店に誘っただけだってば」
「誠君は私と付き合ってるんです。ちょっかいかけないでください」
低い、だが芯のこもった声で、言葉は言った。
「あれ、伊藤君と付き合っているのは貴方じゃなくて、もっと髪の短い、ちっちゃな子だったと思ったけど」
言ってから、誠と付き合っている時の世界の朗らかな笑顔を、唯は一瞬思い出した。
「それは……。その子が誠君を誘惑して、一緒にしたから……」
「した……何を……?」
言ってから唯は、言葉の顔がかすかに赤くなったのを見て、その行為が人に言えないものであるのを感じた。
もっとも、自分も夢に見たことであったが。
「唯…………あんた横恋慕してたんか…………?」
「というより、二股も三股もかけるような不誠実な男と付き合ってた、ということですよね」
律と梓が、横から勝手なことを言う。
「まあまあ、黙って聞いてあげたら?」
ムギが懸命に二人をなだめる。
ふと澪は、言葉が胸ポケットの中をさりげなく探っているのを察した。いやな予感がして、表情を曇らせる。
「とにかく、もうこれ以上、誠君にちょっかいださないで! 近づかないでください!!」
声を荒げた言葉に対し、唯はうつむき加減で、しかし、しっかりした声で、言った。
「いやだ」
「え?」
「……あの子や、貴方が伊藤君のこと好きなら、私も……伊藤君の……マコちゃんのこと好き!」
「え…………?」
一瞬、凍りついた空気が、場を覆った。
律も梓も、口を半開きにし、ムギは口を両手で覆った。
澪は、唯と言葉の顔をかわるがわる見ながら、ますます表情を険しくした。
「初恋なの」唯は言葉に対して、ゆっくりと、言い聞かせるようにつづける。「2年になってから、近くのコンビニで見かけるようになって、一目ぼれして……。
でも学校も違うし、なかなか声かけられなかった……。貴方とは違って……」
「私とは…………?」
「本当は、貴方のことが妬ましいと思えるくらいなんだよ。貴方は同じ学校だから、きっと気軽に会えて、気軽にマコちゃんと話せたかもしれないけど」
「そんなことないです。昔は楽しかったです、確かに。でも、ちょっと喧嘩したのを機に、友達に取られてしまって。 それがどれだけ辛いものか、貴方、わかっているんですか!?」
「……それでも……どっちにしても、ゆずれない。
どうしても、あきらめられないんだ……」
分かってもらえない。
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