第一部北領戦役
第五話 敗将の思惑 敗残兵達への訪問者
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だけですよ。姓も「城」の一字を貰っただけです。」
――どうも私の言葉は感銘を与えるには至らないようだ。
笹嶋が天を仰ぎ静寂が再び訪れた。
大隊長は、首席幕僚へ視線を送ると歴戦の首席幕僚は無言で肩をすくめた。
そして、大隊長が決断を告げる。
「戦略上必要な事です。やむを得ないでしょう――全滅するつもりは有りませんよ?
補給、補充に関しては可能な限り我儘を聞いて貰います」
そう云いながら不敵な微笑を浮かべる若き大隊長を観て笹嶋は確信した。
――成程、度胸がある。
「助かるよ。そちらは私が便宜を図る。水軍の将校は衆民が大半だ。
将家絡みの余計な面倒は無いよ。全面的に協力する。」
笹嶋がこう云った事には理由がある。
衰退しつつある五将家の中で、彼らが属している駒州――駒城と鎮台司令部を牛耳る護州――守原家はそれぞれ異なった方法で現状の維持を行っていた。
守原は陪臣格や他の五将家の分家、陪臣筋を取り込み、将家としての人脈を拡大させる事で政治的な発言権を拡大させていた。
一方で駒城は、交通の要所であり、良馬の産地である駒州を握っている為に、天領の行う自由経済の恩恵を甘受しており、天領の衆民達から選出され立法を担う衆民院に対して影響力を強める事で勃興著しい衆民勢力と協調路線をとっていた。
こうした財政面での恩恵を受けることで緩やかな衰退から衆民との利益の共有を図っていた。
これにいち早く適応したのが駒州の財政に強い影響力を持っていた馬堂家であり、他家に先じ駒城が衆民院の与党の地盤へ浸透する事ができたのは、稀代の政治家と呼ばれた駒州公・駒城篤胤の右腕となった馬堂豊長の功績であるとも言われている。
こうした政略の違いと双方共にそれが成功しているからこそ、二家の仲は険悪なものへとなっている。
もっともそうした面倒から開放されたことは馬堂少佐にとって恩にはしても遠慮する事はしない。
明日の政治より、今の戦争に生き残ることが遥かに大事である。
「それでは遠慮なく、一個中隊の銃兵――可能なら鋭兵を。
それと騎兵砲部隊を二個小隊、擲射砲部隊を一個小隊。
短銃工兵もニ個小隊、それらの増援を含めて糧秣を十ニ日分
弾薬を十五基数、その他諸々の物資、勿論、馬車でお願いします。」
そう言いながら馬堂は輜重部隊から将校を引き抜き、作らせた目録を笹島に押し付けた。
「手配しよう。」
改めて目を通すし、笹島は苦笑した。
――遠慮がないな。否、当然か。
「それと、宮様――近衛の旅団はどのような様子ですか?」
帳面になにやら書き込みながら少佐が尋ねる。
「ああ、実仁准将は中々の御方らしい。
あの弱兵部隊で撤退命令を固辞して後衛を勤めている。
負け戦にこそ皇族が良い所を見せる必要がある、と」
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