第三章:蒼天は黄巾を平らげること その4
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が始まっていく。自軍の雑兵がまるで蠅でも叩くように槍を振り下ろしては、相手を殴り、切裂いていく。そして自軍の中で一際目立つのが、戦場の最前線で嵐のように暴れ回る荒くれ者であった。両刃の十文字槍をぶんぶんと振り回しては、紙切れでも千切るように敵陣を切り裂いていく。
感心の溜息を吐きながら、人形を頭に乗せた少女は言う。
「さすがは稟ちゃんの策です。見事に敵さんを封じ込めました」
「仮にも民を守るのですから、奮起せざるを得ませんよ。ですが真の立役者は彼でしょうね。あの激しい武・・・さすがと言わざるを得ません。雑兵ごときではどうにもならんでしょう」
「あれでも猪武者ですから扱いには注意しないといけませんけどね。昔、あの人もそうだったでしょう?」
「ああ、そういえばそうでした。『時の趨勢は徐々に確たるものとなってきた。私の身の振り方を弁えんと、大河の流れから外れて川辺に打ち付けられる小石となってしまいかねない』と言って幽州で別れた彼女も、武芸が達者で、一途な人でした」
「その言葉ももとはといえば、メンマの大量買いで路銀が無くなったからなんですけど。今頃なにをやっているんでしょう。槍一本で川の流れを変えたりしているんですかね。・・・あっ」
「?どうしました」
「あの愚かな人もどきが討たれたようです。酒豪のくせにやりますね、あの人」
稟、と真名を呼ばれた知的な女性は戦場から響き渡る鬨の声と、その中心で十文字槍を高々と突き上げる男、そして不意に少しだけ舞い上がってはすぐに人並みに飲まれてしまった、哀れな敗者の首に目を向けた。憐憫以外の何者をも、その表情から感じる事ができなかった。
「馬鹿な人。自分の役割を放棄するから殺されるのよ」
かつては県丞であったが、賊兵の襲来に恐れ、あまつさえ自ら私兵を率いて街を略奪した男の最期。たった二人の少女によって持っていたものを全て奪われた男の末路。首から下の部分は誰かに踏み均され、野草よりも平べったい姿になっても、その所業ゆえにきっと誰からも赦される事はないだろう。
頭首を失った軍は音も立てずに瓦解していく。蜂の巣を突いたかのように、あるいは一石を投じられた小魚の群れのように、わっという勢いで兵達が逃げ出していく。追撃のために戦線を指揮する者達は浮かれた顔を隠せず、余裕たっぷりに敗者を蹂躙していく。日頃の鬱憤を晴らすためともいわんばかりの容赦のない攻撃だ。
趨勢を決した戦場から完全に興味を失くしたのか、金髪の少女はうんと背伸びをして、「あぁ」と前置きして手を叩いた。稟はまたかと言いたげに彼女を見た。
「どうしたのです、風」
「そういえば稟ちゃん。私、この前夢を見たんですよ」
「ふぅん?今日はどんな事を聞かされるのやら。この前のは、『出汁が沁みた鳥の骨を惜しむあまり、空から降って
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