第五十七話 北の国からその十二
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その彼がこう二人にややたどたどしい日本語で言って来た。
「はじめまして、だね」
「はい、はじめまして」
「どうもです」
二人も彼に挨拶を返す。
そのうえでその彼にこう問うた。
「単刀直入に申し上げますが」
「貴方がですね」
「僕は剣士なんだ」
その彼からの言葉だ。
「ペテル=コズイレフっていうんだ。職業は学生だよ」
「学生ですか」
「ロシアからの留学生だよ」
これが彼の立場だった。
「語学留学で来ているんだ」
「それだけが目的ではないですね」
「留学で来たんだけれど」
そこで、だった。コズイレフは優しい声で大石に返す。
「そこで声、貴方達も知ってるよね」
「はい、あの声ですね」
「あの声に言われたんだ。僕は剣士で」
そしてだというのだ。
「戦い勝ち残れば願いを適えてもらえるって」
「そうですか」
「そう、そしてね」
さらに言うコズイレフだった。
「僕は戦うことを選んだんだ、考えたうえでね」
「そうですか。では」
大石はここで高代も見て言った。
「私は貴方もまた止めてみせましょう」
「カトリックの神父さんはそうするんだね」
「そのつもりです」
「そうなんだね。けれどね」
コズイレフは朴訥な調子のまま言っていく。
「僕も倒されるつもりはないからね」
「戦われますか」
「今ここでね」
「私もです」
ここで高代も言ってきた。
「そうさせてもらいます」
「ではどうされますか」
大石は高代の言葉も聞いて二人を交互に見た。
そのうえで彼等に対して問うた。
「ここは」
「僕は自分が一人じゃないと闘わないよ」
戦う、が闘うになっていた。当然ながらコズイレフもこのことを意識してそのうえで使っているのである。
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