第五十七話 北の国からその十
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「そうですね」
「その通りです。今この国に来られました」
「この国ということは」
「日本です」
こう答えた聡美だった。
「この国に来ました」
「日本にというと」
大石は言う。
「どの国からの人でしょうこか」
「ロシアです」
今度はこの国だった。
「そこから来ました」
「そうですか」
「ただ。その方は」
そのロシア人はというと。
「この教会には入られたくはないでしょう」
「宗教の関係ですね」
「正教です」
出て来たのはこの宗教だった。
「ロシア正教です」
「カトリックとは違うからこそ」
「はい、この教会には入られたくない様です」
「わかりました」
話を聞いて頷いた大石だった。
「それでは」
「宗教の違いはこの国以外では大きいです」
まだそうだ。特に欧州ではそうであり今尚その宗教区分は三十年戦争の頃とほぼ変わっていないのが現実である。
「日本以外では」
「そうですね、確かに」
「私も」
聡美もここで顔を曇らせる。
「教会は」
「そういえば貴女はギリシア人でしたね」
高代が言ってきた。
「そうですね」
「はい」
「日本人とのハーフで」
「そう思って下さい」
「思う?」
「いえ、そうです」
その通りだとここで言葉を止める。
そのうえでこう言ったのだった。
『私はギリシア人です」
「日本人の血が入った」
「いい国ですね」
答えずにこう言うのだった。
「とにかく私はカトリックではないです」
「ではお嫌でしょうか」
大石は少し悲しい顔になり聡美に問うた。
「こちらに入られるのは」
「お言葉ですが」
「宗教の違いは大きいですね」
「そうですね、本当に」
「貴女は正教だったのですか」
「いえ」
だが、だった。ここで聡美はこう言うのだった。
「違います」
「正教の方ではないのですか」
「そうなのです」
「では」
大石は彼の欧州の知識から聡美にさらに問うた。
「プロテスタントでしょうか」
「キリスト教とは」
「あまり縁がない」
「欧州にも色々な宗教がありまして」
これは大石が知らないことだった。
「それで私もです」
「そうした宗教のですか」
「そうなのです」
「でしたか、これは失礼」
「御気になさらないで下さい」
「欧州にも様々な宗教があるのですね」
「神々は死んではいません」
ここでこうも言った聡美だった。
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