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久遠の神話
第五十七話 北の国からその八

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「言えないっていうかな」
「どうしてもですか」
「聞かないでくれたら余計に有り難いな」
「そうなんですね」
「俺も人間でな」
 また人間という言葉が出る。ここに含まれるものはいい意味でも悪い意味でも非常に多く複雑だ。
「聞かれたくないこともあるさ」
「人間だからですか」
「誰だってあるだろ。聞かれなくないこと、言いたくないことがな」
「それで中田さんにもなんですね」
「ああ、聞かないでくれよ」
 また言う中田だった。
「そういうことでな」
「わかりました」 
 樹里だけでなく上城も答える、二人の言葉が重なっていた。
「それじゃあ」
「そういうことでな。さて、じゃあな」
「それじゃあですね」
「これからどうするんだい?俺は家に帰るけれどな」
 今度は二人に顔を向けて言う。
「君達はどうするんだい?」
「ええと、そうですね」 
 上城は中田の言葉を受けてから樹里に顔を向けて言った。
「暫くここにいる?」
「中華街に」
「うん、王さんと闘うかも知れないけれど」
「それでもなのね」
「ここにいたら色々と楽しいから」
 神戸の中華街も賑やかだ、楽しい場所である。
 だから上城はこう樹里に言ったのだ。
「一緒に。どうかな」
「そうね。ここを歩くだけでも楽しいし」
「色々見てもね」
 もう食べることは満足しているし買うものも買った、それでもだった。
「楽しめるからね」
「それじゃあね。一緒にね」
「うん、それじゃあ」
「よし、これで決まりだよな」
 中田は普段の笑顔で言った。
「それじゃあお邪魔虫はこれでな」
「帰られるんですか」
「ああ、そうするよ」
 こう上城に言う。
「それで家で稽古をするか」
「素振りですか」
「それか走るかな」
「そういえば中田さん今はお酒飲んでないですね」
「飲むとな」
 それでだというのだ。
「もう身体動かせないからな」
「ですよね、お酒は」
「夜に飲むさ」
「それで帰ったらですか」
「走ってそれでな」
 それからだった。
「夜に飲むさ。また今度な」
「はい、また」
 こう話をして別れてからお互いの時間になった。彼等は日常を楽しんでいた。
 高代はこの時大石の教会に来ていた、そしてだった。
 礼拝堂において左右に並んで座り彼にこう言われた。
「残念です」
「私が剣士であり戦うことがですか」
「そのことが残念でなりません」
 大石は己の前にある十字架の主を見ながら告げる。
「まことに」
「そうですか」
「貴方は上城君の先生であり」
「いい子だと思っています、非常に」
「そして高潔な教育者ですが」
「私は高潔ではありませんよ」
 高代も前の主を見ながら言った。二人には今表情はない。
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