1年目
冬
冬B*Part 3*〜もう一度空へ〜
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どまでの真剣な顔は既に消えており、愛華はニカっと歯を覗かせていた。
「じゃあな! またスタジオで!!」
そんな愛華に何も言わず手を振り、俺は電車に飛び乗った。
俺が乗った駅より前から乗っていた人たちがいたため電車の中は満員状態で、まるでお互いの体を暖めあうため寄り添っているかのようだった。
そんな中、俺は電車に揺られながら先ほどの愛華の事を考えていた。
俺は逃げてしまった。
あんな表情で、あそこまで言われて、何を言いたいか気付かない人なんていないだろう。
俺は戸惑ってしまったのだ。
愛華が言葉を発そうとしたあの瞬間、「彼女」の顔が浮かんでしまったから。
「彼女」は幽霊なんだ。
だがそれ以前に、自分の中で「彼女」の存在がそれほどまでに大きなものになっていることに気づいてしまった。
……一体俺はどうしちまったんだろうな。
そう思うと苦笑いが出る。
そんな俺を乗せて電車は走る。
真っ白に染まった世界をゆっくりと、だがしっかりと目的地に向かって進んでいた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あたしは一歩ずつ家へと向かって歩く。
雪を踏みしめるたび、足元からはぎゅっぎゅっと音がした。そこには駅まで歩いた二人の足跡がまだ残っている。
「あーあ、言いそびれちまったな……」
そんな独り言を漏らすが、あたしは拓海の目があたしを向いていないことに気づいていた。
あいつ、すぐ顔に出るんだよな。
あたしが話そうとした瞬間、複雑な表情をしてしまっていたことなど自分では気付いていないのだろう。
あいつの中にはあたしとは別の大切に思っている人がいる。
恋愛など興味を抱きそうもないあいつをそこまでしたのはいったいどんな人なのだろう。
その存在があたしでないことに唇を噛みしめる。
でもあたしは諦めない。
夢だって諦めないって決めたんだ。
恋だって諦めてたまるもんか。
そう思うと少しだけ元気が出た。そんな時、冷たい風が頬をかすめる。
「さみぃ……。早く帰ろ!」
体を軽く震わせると、あたしは家に向けて走り始めた。
帰り道にはあたしの足跡だけを残しながら。
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