1年目
冬
冬B*Part 3*〜もう一度空へ〜
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袋さんの言葉に愛華はそのまま机にうつ伏せてしまった。そこからは嗚咽が漏れているのが聞こえる。
こいつ意外に泣き虫だったんだな……。
そんなことを思いながら俺は愛華の頭を見つめた。
「ただし、条件はある」
俺はそう言い放つ親父さんあわてて視線を向ける。
「きちんと今の大学には通いなさい。道はいくつあっても構わないものだ。その中から自分で後悔しない道を選びなさい」
そんな親父さんの言葉に愛華は顔を上げ、涙目のまま“はい”と力強く答えた。
「それにな……」
そう言うと親父さんとお袋さんは顔を見合わせる。そこからはどこか恥ずかしげな表情が見受けられた。
「今こんな事を言うのは場違いかもしれないが、お前も来年の今頃にはお姉さんだ。しっかり面倒は見てやりなさい」
そう言いながら親父さんはお袋さんのお腹を見つめる。俺は視線をお袋さんに動かすと、お袋さんは目を瞑りお腹を優しく撫でていた。
「……ははっ、マジかよ」
愛華そう声を漏らすと再び涙混じりの目を見開いた。
「本当はお前にバンドを辞めることを勧めた後にでも言うつもりだったんだがな。あそこまで落ち込んでしまうとは思ってもいなかったんだ。それで言うタイミングを逃してしまってな……」
親父さんは頭を掻きながら眉を顰めてそう言った。
……本当に場違いなのは俺なのかもな。
そんなことを思いながら俺は“おめでとうございます”とお祝いの言葉を告げた。
外は、先ほど降り始めたばかりだというのに辺り一面銀世界だった。まだ降りやみそうもない雪はゆっくりと俺の肩を濡らしていく。
話し合いも終わり、俺は家に帰るため愛華の家を後にしていた。
お袋さんは、もう夜も遅いので泊って行きなさいと誘ってくれたが、俺にはこれ以上家族団らんを邪魔するような真似は出来なかった。
愛華はそんな俺を“送っていく”と言って前を歩いていた。
はじめ俺は断ったのだが、強情な態度を取る愛華に根負けし、駅まで、という条件の元、付き添いをお願いしていた。
「だけど、お袋さんのあの形相は本当にすごかったな。俺も動けなかったよ」
あのときのお袋さんを少し思い浮かべただけでも俺は身震いした。
今後、絶対にあの人にだけは逆らわないようにしよう……。
「お袋、元は族のヘッドだったらしいぜ。高校卒業と共に抜けたらしい。今の姿からじゃ想像できないけどな。お袋の昔のアルバム出てきた時に教えてもらったんだ」
そう言って愛華は笑っていた。
なるほど、それならばあの様子にも納得がいく。
あの威圧感はそこらへんのチンピラよりはるかに勝っていた。
「親父も知らずに付き合い始めたらしいから、当時は苦労し
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