1年目
冬
冬B*Part 3*〜もう一度空へ〜
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、この人の前ではただの小動物に過ぎないのだとつくづく感じていた。
「ありがとう!! ママ!!」
愛華はまるで幼い子供のようにそんなお袋さんへと抱きついた。
ママ……?
いつもと違う様子の愛華に気付き、首を捻った。そんな俺の様子に気づいてか、愛華は慌てたように言い換える。
「じ、じゃなかった、お袋!!」
それを見たお袋さんは、ふふっと笑いながら愛華の頭を撫でる。
「愛華も尼崎君の真似なんかせずに、昔みたいに“ママ”って呼んでいいのよ?」
そんなお袋さんの言葉に愛華は顔を真っ赤にしながら、わたわたとその腕から離れた。
「ち、違うって!! 拓海の真似なんか…」
「嘘おっしゃい。あなたがそう呼び始めたのも、そんな服装になったのも尼崎君が東京にきてからじゃないの」
愛華は、うぐっ、と漏らすと顔を両手で隠しながらしゃがみこんでしまった。
こいつにも可愛いところあるんだな……。
そう思うと、いつの間にか俺からは笑いが零れていた。その声に反応して、お袋さんも、うふふ、と笑う。愛華はそんな俺たちに“笑うな”としゃがみこんだままバンバンと床を叩いている。
部屋の中は先ほどまでの堅く重たい空気が消え去り、笑顔に溢れていた。
……ただ一人、先ほどから電信柱のように固まって動こうとしない親父さんを除いては。
俺たちは改めてテーブルで向き合っていた。
「さ、先ほども言ったが愛華がバンドを続けることを認めてやらんでもない」
いまだ硬い表情を浮かべた親父さんが口を開いた。その隣には優しげな笑みを浮かべたお袋さんが座っている。
さきほどのお袋さんは俺が見た夢だったのだろうか……。
「“認めてやらんでは”じゃなくて“認める”でしょ、あなた?」
そう言いながらお袋さんは親父さんを見つめた。顔は笑顔のままだが、声は笑っていない。やはり、夢などではなかったようだ……。
「あ、あぁ、そうだな。認めよう」
改めて言い直す親父さんに愛華は喜びの表情を浮かべる。その笑顔は幼いころの愛華そのものだった。そんな愛華を見て、親父さんは一つため息をついた。
「しかし、愛華が私たちにそんな我儘を言うとはな……。自分から何かをねだったのは一緒に暮らし始めてこれが初めてじゃないか?」
その親父さんの言葉に愛華は少し俯いた。
「そりゃ親父たちには育ててもらった恩もあるし、物心ついてから一緒に暮らし始めたのも高校に入ってからだ。我儘なんて言えねぇよ……」
か細い声でそう言う愛華に、お袋さんは“バカねぇ”と口を開く。
「子供は親に我儘言っていいのよ? あなたの本当の思いはきちんと聞きたいもの。我慢なんてしなくてもいいの」
お
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