1年目
冬
冬B*Part 3*〜もう一度空へ〜
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グへと足を向けた。
そんな様子を見た俺と愛華はお互いの顔を見合わせる。
「「ありがとうございます」」
そして俺たちの声が広い廊下に響き渡った。
リビングへと入ると廊下よりはるかに温かい空気が俺を包んだ。テーブルには温かそうな湯気が立ち上るカップが4つ用意されている。その一つの前には既に先ほど俺たちに声をかけた女性が優しく微笑みながら座っていた。親父さんはその横へ行くと静かに椅子に座る。きっとあの人が愛華のお袋さんなのだろう。
俺たちもその後に続くように綺麗な装飾のなされたカップの前へと座った。
「先ほども言ったが私は明日も仕事だ。あまり時間は取れない」
親父さんは目の前のカップを手に取り、ゆっくりと口元へと運んでいく。
その顔は先ほどの硬く冷たいものへと戻っていた。
「はい、単刀直入に言います。娘さんを俺にください!」
俺の言葉に親父さんは驚いた表情を見せたかと思うとゲホゲホと咽返った。隣にいるお袋さんは“まぁ”と口に手を当てどこか含みのある様な笑みを浮かべている。そして、俺の隣を見ると愛華が慌てふためいたように両手をバタバタさせていた。そんなそれぞれの様子を見て、俺はハッとし、自分の言ったことの大変さに気付いた。
「ち、違います!! そう言った意味ではなく、愛華さんをまだうちのバンドに置いて欲しいという意味です!」
俺も慌てて自分の言葉を訂正する。
「当たり前だ、馬鹿!」
そう言いながら愛華は俺の肩を叩いた。目の前のお袋さんはなぜか少し残念そうな表情をしているように思える。親父さんは、ごほん、と軽く咳払いをすると先ほどまでの様子を取り繕うように語り始めた。
「そ、その話は愛華から聞いているだろう。愛華は勉強に専念させるために辞めさせた。君に決定権はないはずだ」
そうは言っても親父さんの声からはまだ慌てていることが感じられる。そんな様子を見てか、お袋さんはクスクスと笑いを零していた。
「はい、聞いています。それでもやっぱりこいつは夢を追いたいと思っている。もう少しだけ時間をくれませんか」
そんな俺の言葉を聞いて親父さんは愛華へ向けて視線を動かすと、どうなんだ、と問いかけた。愛華は少し口ごもりながらもその問いへ答え返す。
「……はい。あたしはまだ諦めきれない。もっと歌っていたいんだ」
その回答に親父さんは、ふーっと息を吐き口を開いた。
「愛華にも君にもわかると思うが、音楽でやっていける人と言うのはほんの一握りだ。私には愛華がそうなれると思えない。娘の幸せを考えてやるのが親というものだろう?」
そんな言葉に俺は唇を強く噛みしめる。
「こいつには、俺よりも、誰よりも才能がある! それは俺にだって
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