1年目
冬
冬B*Part 3*〜もう一度空へ〜
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空からは静かに雪が舞い降りている。
雪は風が吹くたび再び空へと舞い上がったり、もしくは誰も知らないどこかへ飛ばされて行ったり。それはこれから起こる事を祝福する天からの贈り物なのか、はたまた波乱を告げる凶兆なのか、俺にはわからない。
俺は今、ずっと握られている愛華の手の温もりだけをただただ感じていた。
玄関から中に入ろうとドアを開けると、部屋の中の温かい空気が外へと逃げ出し、吹き出る風は俺を押し返す。それはまるで俺という異物を家に上がらせようとさせまいとしているようにも感じられた。
「高尾さん、彼に温かいお茶を用意してあげてくれ。それと私にはコーヒーを私の自室まで」
俺の目に映る大きく、広い背中の男性の声がずっしりと響いてくる。その声は感情を持ち合わせていない機械のようだった。そんな声に家政婦は“かしこまりました”とだけ言って廊下の奥の部屋へと消えていった。
「待ってくれ、ください! 俺はあなたとお話したくてここまで来ました! 少しだけでもお話させてください!」
俺はいまだ温まっていない凍える体から震える声を必死に絞り出し、その大きな背中へと向けた。
「私は明日も仕事がある。今は君も体を休めなさい」
優しい言葉のようで全てを突き放す言葉。そんな冷たい言葉に俺は体が震えるのを感じる。
だが、ここまできて引き下がるわけにもいかない。
俺は自身の部屋へと足を進めるその背中を追い越し、その道を塞ぐかのように立つ。
「何のつもりだね?」
そう言いながら愛華の親父さんは俺のことを虫でも見るような目で見つめてくる。
俺と向き合ったその顔は仕事の疲れからなのかうっすらと隈が見えた。その表情は声同様、硬く冷たい。
「お願いします! ほんの少しだけでもいい! 俺に時間をください!」
俺は親父さんに大きく頭を下げた。そんな様子を見たからか、愛華も俺の隣へと慌てるように駆け寄ってくる。
「親父! あたしからもお願いします! あたしたちの話を少しだけ聞いてください!」
俺と同様に愛華も深く頭を下げる。しかし、目の前の存在からはいまだ冷たい雰囲気が漂っている。
そんな時、俺たちの背中越しに声が聞こえてきた。
「あなた、愛華、それに尼崎君、お茶の用意が出来たからみんなこちらにいらっしゃい」
俺はその声に振り向くと厚手のスカーフをかけた若々しい女性がリビングのドアからこちらへと体を半分覗かせ手招きをしているのに気付いた。
そんな姿を見た親父さんは少し驚いた表情を見せると、先ほどまでの冷たい雰囲気を脱ぎ捨て、はぁ、とため息をついた。
「……わかった。30分だけ話を聞こう」
そう言うと親父さんは俺たちをゆっくりと追い越し、リビン
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