第五十一話 暫くそこでもがいていろ
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ミッターマイヤーが“そうだろうな”と言って頷いた。
「そう言えばエヴァが言っていたな。税が軽減された所為で買い物を楽しむ主婦が増えたらしい。皆暮らしが楽になったと言っているそうだ、以前はそんな余裕は無かったのにな」
「なるほど、改革の成果か」
「うむ」
最高司令官は帝国宰相に就任すると開明派、改革派と呼ばれる人間を集め政治改革を行い始めた。直接税、間接税の軽減、貴族達の特権の剥奪と平民達の権利の拡大。そして辺境星域の開発。これまで常に貴族に、政府に虐げられてきた平民達、中央から見捨てられてきた辺境星域がようやく脅える事無く生活できるようになってきた。
帝国は明らかに良い方向に動いている。動かしているのはヴァレンシュタイン最高司令官だ。彼に対する将兵の信頼は厚い、そして将兵以外の平民達も最高司令官を支持している。“改革者ヴァレンシュタイン”、“解放者ヴァレンシュタイン”、平民達にとって最高司令官は自分達の代表者で有り、庇護者なのだ。平民達が最高司令官を讃えるのは当然とも言える。
帝国の平民達は最高司令官がこのままずっと帝国を統治する事を望んでいる。それこそが自分達の生活を、権利を、繁栄を守る事だと理解しているのだ。エルウィン・ヨーゼフ二世が成人して親政を望んだとしても誰もそれを支持するまい。徐々に、徐々にだが帝国は皇帝の物から最高司令官の物になりつつある……。
簒奪か……、あの時、リヒテンラーデ侯が“簒奪など許さん”と叫んでいた。だが最高司令官は何の反応も示さなかった。むしろ俺やミッターマイヤーの方がどう受け取って良いか分からずオドオドしていただろう。最高司令官はそんな俺達を見て微かに苦笑していた、そして溜息を吐いた……。
今でも良く覚えている。まるで事態に付いていけずにいる俺達を憐れんでいるようだった。平民から皇帝か、ゴールデンバウムの血を持たない皇帝、フォンの称号を持たない皇帝……。外見からはそうは見えないが彼は誰よりも力の信奉者なのかもしれない。五百年に亘って続いたゴールデンバウム王朝の血を完全に否定した冷徹な実力主義者。
“力有る者が上に立つのは当然の事、例え貴族といえど力無き者は滅ぶしかない”、その言葉は貴族だけではなく皇族にも当てはまるのだろう。最高司令官にとって簒奪は既定路線なのだ、彼はその路線を気負いも覇気も見せずに平然と歩んでいる、至極当然の様に……。
俺とは違うと思わざるを得ない。不条理を不満に思っても俺には行動出来なかった。自らが皇帝になる等考えられなかったのだ。俺がもしグリンメルスハウゼン老人に選ばれたならどうしただろう、皇帝への道を歩めただろうか? それとも……。分からない、何度考えても答えが出てこない。だがそれは俺だけの事だろうか……。目の前でミッターマイヤーがグラスを口に運ん
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