第五十一話 暫くそこでもがいていろ
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ど望んでいないんじゃないかな。むしろこれ幸いと同盟を陥れ痛めつけたんじゃないかと思う」
「私も同感だ。出来る事なら帝国と和を結びたいと思うが……、ヴァレンシュタインが相手では難しいかもしれん」
「……」
ホアンが溜息を吐いている。私も出そうになったが慌てて堪えた。
帝国からの亡命者から聞くヴァレンシュタインの人物評は決して良くは無い。もちろん亡命者からの情報である以上追い出した人間を良く言う筈が無い。しかし多くの人間が冷酷非情で油断のならない陰謀家、野心家と彼を評しているのは根拠が無いとも思えない。現実に同盟はあの放送により酷い混乱に陥っているのだ。
そして帝国では彼の政敵の殆どが死んでいる。穏やかで誠実そうな外見の下に獰猛なまでの苛烈さと酷薄さを秘めていると見て良い。そして当代無双と称される軍才。今改革を進めているのも権力の地盤固めを狙った人気取りという事は十分に有るだろう。
「ホアン、私は彼が簒奪を考えているんじゃないかと思うんだが……」
私が話しかけるとホアンが頷いた。
「私も同意見だ。簒奪するには民衆の支持が要る。それを得るためには国家指導者としての成果が必要だ。内政面ではドラスティックな改革を、外政面では軍事的な大勝利を必要としているんじゃないかと見ている。今回の捕虜交換もそのためだろう」
「国内の権力基盤を固める間、同盟が国力を回復させるのを阻もうとした、そういう事か……」
「そういう事だ」
ホアンの顔色は良くない、多分私も同様だろう。同盟はとんでもない野心家を敵にしている。ヴァレンシュタインの狙いは同盟の征服だろう。国内が安定すれば必ず戦争を仕掛けてくるはずだ。
「ビュコック老人に聞いたのだが捕虜交換の所為で軍と政府の関係もおかしくなってきているそうだ。頭を痛めているよ」
「どういう事だ?」
「軍だけが良い子になっている、そういう事だ」
「なるほど」
私の答えにホアンが顔を顰めて頷いた。
ヴァレンシュタインは政府を非難する一方で軍の対応を称賛した。その所為で政府側には軍が自分だけ良い子になっている、都合の悪い部分は全て政府に押し付けている、そんな感情が有るらしい。もっとも軍側にとっては早く捕虜交換をして貰いたかったのに交渉を決裂させたのは政府なのだから軍を恨むのは筋違いだという思いが有る。ヴァレンシュタインは両者の間に亀裂を生じさせたのだ。着々と手を打ってきている、そして同盟は彼の打つ手に翻弄されている。
「頭が痛い問題は他にも有る」
「……」
「帰還兵達は軍に復帰しようとしない。三百万人の将兵の補充を目論んでいたのに復帰したのはほんの僅かだ、一万人にも満たない」
私の言葉にホアンがまた溜息を吐いた。
「三百万人の帰還兵というより三百万の反政府分子を抱え込んだようなもの
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