第百四十四話 久政の顔その一
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第百四十四話 久政の顔
信行は武については何の資質もない、これは幼い頃からであり信長に大きく劣るにしても馬に乗り水練は出来る。
だが刀も槍も不得手である、そして兵法も苦手だ。政や文には秀でているがこれが彼の弱みとなっている。
出陣の際は武は弟の信広に任せている、それは今もだった。
信長の留守を預かり入っている虎御前山の本陣においてだ、彼は傍らにいるその信広にこう言ったのだった。
「戦のことは全て御主に任せているが」
「はい」
「今は攻めぬに限るな」
「こうして小谷城を囲むだけでいいです」
まさにそれだけでだというのだ。
「今は」
「そうじゃな、兄上が戻られてからじゃな」
「我等は留守を任されています、それに兄上も御自身で城を攻めると仰っています」
兄の言葉もある、だからだというのだ。
「今はこうして徳川殿と共に囲むだけでよいかと」
「そうじゃな、しかしわしはどうもな」
信行は座したまま言う、今は兜を被らず烏帽子のままだ。織田家の青い衣に具足と陣羽織を着けている。
その彼がだ、こう言うのだ。
「戦は不得手じゃ」
「だからこそそれがしに任せて頂いていますな」
「御主は政も出来る、しかしわしは政だけじゃ」
信広は政でも動ける、しかし自分は戦ではというのだ。
そこに己への歯痒さを感じだ、信行は言うのだ。
「不甲斐ないのう」
「いえ、勘十郎兄上だからこそ」
「わしだからか」
「皆言うことを聞きます」
温厚で生真面目な性格の彼は皆に慕われている、平手と並んで信長の補佐役を務めるだけの資質があるのだ。
信広は信行にそのことを言うのだ。
「ですからここは」
「わしはか」
「はい、一門衆が皆落ち着けるのです」
「兄上は時折突拍子がないからのう」
信長の性格がそうさせている、彼のその突拍子のなさはそのまま魅力になっているがそれでもなのだ。
「それでわしが兄上の傍らにいるか名代ならばか」
「はい、頼りになりますし」
「そうなのか」
「それにわしは政では兄上に遠く及びませぬ、ですから」
「だからか」
「特に負い目を感じられずともよいかと
「左様か、それではじゃ」
信行は信広の言葉を聞いて頷いた、そしてだった。
あらためてだ、信広にこう告げた。
「兄上の仰るままだ」
「攻めずにですな」
「兄上を待とう、間も無く戻られるであろうしな」
「越前が陥ちました」
そうなったことをだ、信広はここで話した。
「朝倉家は当家に降りました」
「そうか」
「そして今本軍は近江に戻っています」
つまり信長がだというのだ、
「間も無くです」
「あの城を攻めるか」
信行は己の座からその小谷城を見た、数万の軍勢に囲まれた城は今は微動だ
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